深海少女

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「(疲れた・・・)」


私の現在地・大阪



筝曲部の部長という肩書きの下、琴の演奏会の鑑賞を終えたところである。


というのも、週に1度立海へ講師として来て頂いている琴の先生に演奏会のチケットを貰ったからだ。


『柊さんの音色と弾き方は、どこか人を惹きつける物があるわ』

先生はそう言って普段から私に目をかけてくださっているだけに、断れなかった。



距離的に少し遠いのだが、交通費は部費から出る


予定も無かったし行っておいて損は無いだろう、と赴いたのだが

和服姿のご年配の方々に混じって制服姿の女の子が1人、というのは少々目立っていた気がする。




まだ季節は夏休み前

3年生の引退には早く、2年生の部長というのは珍しい


実は、ゴールデンウィーク前に筝曲部の前部長が引っ越すので転校、ということになってしまい

ならばちょっと早いけれど、この機会に引継ぎをしてしまおう。という事になったのだ


矛先に立たされた私は勿論戸惑ったのだが、先輩といえどやる気のない人が部長になるよりは、と
部のため自分のため、めでたく部長に就任したわけである。


3年生に混じって1人だけ2年生部長、ということで
部長会議など、肩身の狭さが浮き彫りになる事もあるが

それでも、充実感やら達成感やらを感じられる事は少なくない。


就任当時「自分の城を作ると思えば・・・うん。できるできる、私できる。」と仁王に漏らしたところ
「お前さんに心配するだけ無駄じゃったか…」と呆れた様子で言われたのが癪だった。





そして先ほど、舞台に出ていた先生に花束を渡し簡単な挨拶を終えた私


帰りの新幹線まで時間に余裕があったので少し休憩をしよう、と
近くにあったファミレスに足を踏み入れた。



「ええと・・ざいぜんセット1つ。飲み物はアイスコーヒーで」

「かしこまりました」


「ブッ!!」
「ぶはっ!!」


注文を受けて下がるウエイトレスさん


それと同時に聞こえた噴出した声は、隣のテーブルから


つられて其方を向くと…


「ふ、ふは…ッ!!ざ、財前のセットやて…ッ」

「黙ってくれませんか謙也さん」

「ぐほッ!?」

「いやん☆光君がたくさんおるなんて、ワテ困ってまうわぁ〜」

「俺は小春がセットでおっても、全部愛せる自信があるわ!!」



そこには、イケメンだが濃い集団がいた。



「ハハッ!!なんやすまんなァ。せやけど自分、えらいエクスタシーな事言うからつい笑てしもたわ」

「・・・・ああ、そうですか・・・間に合ってます」

「何がや!?」



コイツはダメだ。



私の脳は即座に正しい判断を下し、一切の関わりを持つな、と結論を下した。


公共の場で卑猥なことを言い出したのも、私の言葉にツッコミを入れたのも、顔は大層なイケメンだった。


しかし私は知っている

顔が良い男にロクな奴はいないのだ、と
(勿論カズヤさんは別だ)



隣のボックス席との間に透明な壁を作り
鞄の中を整理していると

出てきたのは今日の演奏会のパンフレット


そして、今日の朝、大阪駅で買ったCD


本日発売のCDアルバムを偶然手に入れられた事に機嫌を向上させながら
中を開けると、ライブチケットの抽選券が入っていた。


「(ああ…そっか。初回限定版を買えたんだ)」


抽選券を見ると、ライブ会場は大阪

このグループは好きだが、この距離をまた平日に往復する気は無い。

それに私はどうも、ライブなどの人の多いところは苦手である



そんな事を考えながら、抽選券を指で弄んでいると…



「え」

「・・・・・」



正面に、黒髪ピアスのイケメンが座っていた。





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