深海少女

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その場に私が居合わせたのは偶然と言えば偶然で

必然と言ったら必然だったのだろう。






あの、体育の授業で真田君とテニスの試合をしてから早数日


最初のうちは、奇異な目で見られたり、無駄に名前を呼ばれたり
こそこそと話しながら指差される事も多々あったが


しばらく経つとそれも落ち着きを取り戻し、今では以前と変わらぬ学校生活を送れている。


ただ1つ変わったとすれば---


「(やってるやってる)」



窓から見えるは立派なテニスコート


そこで今まさに部活動に励んでいる立海テニス部の次期レギュラーメンバーと、接点が多くなったのだ。



元々、1年の時に同じクラスだった仁王と柳生君とはそれなりに親交があったし
今年の春にひょんな事で出会った切原君は私を「羽音先輩」と呼び慕ってくれていた。


同じクラスで、現在は席まで隣の真田君

彼は、私達の試合について外野にいろいろ言われる度、一喝して私を気遣ってくれた。


まともに話したのが初めてだった柳君、桑原君とは
廊下ですれ違った時に挨拶を交わすようになった。


その中でも特に丸井君はクラスが同じ事と、仁王と仲が良いこともあり
今や3日に1度程は屋上で一緒にお昼ご飯を食べる間柄になっている。



そしてあの時---私に向けられた、背筋が凍るような瞳

持ち主は‘神の子’だなんて大層な二つ名を持つ立海テニス部の部長



幸村精市とは、あれ以来会っていない



「(というか・・・私が細心の注意を払って避けてるし)」



何冊かの本を持ち直し、緩く頭を振った


今まで何も無かったんだから、これからも大丈夫。そうに決まってる。



「(それより、土曜日はもう明後日なんだから!!)」


楽しみにしている事に思いを寄せ、無理矢理気分を明るくさせた。


そうして図書館へと続く廊下を歩いていると
真横の教室から、大きな音が---机や椅子が倒れるような、尋常では無い大きな音がした。


その後に続いたのは、聞き覚えのある大声



プレートには‘1年’の文字



一呼吸を置き、私は開けっ放しのドア付近へと近づいた





+++++





「だから!!お前も1年だろ!!片付けは1年の仕事だって言ってんじゃん!!」

「特別扱いされてるからって、サボっていいはずねぇだろ!!」

「別にサボってねーじゃん」

「じゃあコート整備残ってやってけよ!!」



「ナンで?お前等なんかと一緒にすんなっての」



「き・・・っ」




「切原君」




予想外の介入に驚いたのだろう


教室内にいた少年達は全員、弾かれるようにこちらを向いた



部外者の---それも先輩の登場に色々と言いたいことも思いもありそうだ。

しかしその表情には気付かない振りをして、私は殊更に柔らかく微笑んだ



「話の途中でごめんね。今日、私達図書当番でしょう?」

「あ。すいませんっス!!いますぐ・・・」

「ああ、違うの。先週渡したファイルがちょっと必要になって・・・今、持ってる?」

「あるっスよ」



机の中を探り出した切原君


意図的に話の腰を折ったのは間違いなく私な訳で、煮え切らない表情をしている彼等に軽く会釈すると

少年達はバツが悪そうに「行こうぜ」と言い、そそくさと教室を出て行った。


テニスラケットを持っていたのだから、彼等は立海テニス部員なのだろう---切原君と同じ、1年生の




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