君の瞳に映る空

□37度の情熱
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真っ赤な血が、視界いっぱいに舞い散った。



その一瞬、まるで世界からあらゆる音が消えたようで
声も出なかった。



巨人をどうしたかさえ覚えていない。


気が付いたら、ただただ名前を呼んでいた。



俺を庇うなんて馬鹿なことをした、女の名前を。




「リヴァイ!!落ち着け、ギンガを離すんだ、早く手当てをしなければ!!」

「ギンガ!!おいッ!!目ぇ開けろ!!」

「いい加減にしないか!!早くギンガをこちらに渡せ!!」

「触るんじゃねぇ!!ギンガっ!!」


エルヴィンが必死に訴えるが、リヴァイはまるで子供を取られまいとする親のようにギンガを離そうとしないばかりか、近寄る者全てに殺気を放つ。


その間にも、怪我を負ったギンガの身体からは鮮血が流れ出る。

リヴァイが強く抱き込むことで、更なる出血を促しているというのに
錯乱状態にある彼は、それすら気づいていない。


「リヴァイッ!!----っミケ!!手を貸してくれ!!」






+++++






「入ってきたらー?」


からかいを含んだような声色。


一拍の沈黙の後に、ギイ、と軋むような音を立てて扉は開かれる。

ベッドの上で上半身を起こしていたギンガは、ひらひらと手を振ってリヴァイを出迎えた。



西日が差しこむ医務室で、2人きり。


リヴァイはベッドサイドの椅子に座ることもせず、ひたすらに沈黙を貫き

またギンガも、そんなリヴァイに何をするわけでも言うわけでもなく、手元の書類に目を落としていた。




「傷は残るのか」


前触れもなく掛けられたそれは、何の感情も読み取れない無機質な声だった。


ギンガは一度リヴァイを見上げ、そして何かを考えるように目線を逸らすと、羽織っていただけのシャツを躊躇いも無く脱ぎ去る。


胸に巻かれたサラシのみを残して、露わになる華奢な身体と白い肌。

しかしその雪のような肌には、いたる所に傷跡や痣、縫合した痕があった。


元々が白く美しい柔肌故にそれは一層痛々しく、目を覆ってしまいたくなるほどだ。



「そうみたい。でも、生きているからこそだもの」

「……」

「今更だよ。リヴァイが気にすることじゃない」


笑ったギンガには応えずに、彼は言葉無く手を伸ばし、鎖骨下にあるまだ新しい傷跡を指でなぞる。

華奢な身体は小さく跳ねた。



「痛むのか」

「まぁ…たまに」

「そうか」


黙り込んだと思ったが、不意に

リヴァイは何の前触れもなく、その肌に口付けを落とした。


肩、胸元、二の腕、わき腹


そこにある傷1つ1つを丁寧に、愛でるように-----まるで、情事の愛撫のように。

薄い唇が、白い肌の上を滑るように這った。




いつの間にか体勢は、ギンガがリヴァイにより押し倒されているような状態に。

しかも圧し掛かるリヴァイがその足を絡めている事により、起き上がれない。


触れる指は冷たいが、怪我をして発熱している身体には心地良い。

その指と反して吐息は熱く、だが瞳は何時もと変わらず鋭いまま。




ああ、これ以上はまずい。


微熱では済まなくなる。



「リヴァイ、やめ…」



しかしギンガの制止は途中で途絶えた。


押し返そうと手を置いた彼の肩が、震えていたのだ。






2013.5.2

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