君の瞳に映る空

□恋人の条件
1ページ/1ページ




書類を届ける、という名目でエレンに会いに旧調査兵団城を訪れたギンガ。



権力と実力行使と泣き落としでエレンとの接触権をもぎ取ったギンガは、何かと理由をつけては彼に会いに来ていた。


現段階では接触を禁じられているミカサやアルミンにからの手紙をエレンに渡すためであり
心配に胸を痛める妹(暴走一歩手前)に、エレンの状況を教えるためでもあった。


もちろん、彼女自身も奇特な境遇に陥ったエレン・イェーガーという少年を、まるで弟のように思い心配している。



そんなギンガの訪問は、寄る辺の無いエレンにとっては数少ない楽しみであった。


彼その立場故に、この調査兵団内でもまだまだ味方が極少ない。

リヴァイ班のメンバーですらも、最近やっと神経を使わずに会話をすることができるようになった所だ。



だからそんな中で、二心無く自分を案じてくれる年上の綺麗で優しいお姉さんに淡い憧れを抱くのは、少年として当然の事だろう。


そんなエレンは知らない。


実力行使の名の下にギンガ分隊長が行った、いともたやすく行われたえげつない行為の数々を。


何を隠そうギンガはあの、エレンに関しては暴走することに定評のあるミカサの姉だ。

知らぬが仏とは、まさにこの事である。





そんな諸事情はともかく、エレンと2人和やかな時を過ごしたギンガは
ちょうど頃合いの時間だったこともあり、リヴァイ班と一緒にご飯を取ることとなった。



その夕食の席でリヴァイと隣同士に座ったギンガは、食事をしながらもいくつかのおかずを隣の皿へと入れていく。

逆に、隣の皿からもいくつかの野菜がギンガの皿へとやってきた。


何の前置きも合図も無に行われたそのおかず交換に、エレンはつい食べる手を止めて凝視してしまう。



「ん?どうかした、エレン」


箸が進んでいないエレンを見留め、ふわりと花のように微笑むギンガ。


東洋人特有の黒よりももっと深い漆黒の瞳と、それを縁取る長いまつげが緩やかに動く。

エレンは、ギンガがその大きな瞳を優しく細めて微笑う姿が好きだった。



「あ、いえ…その」


腹芸などできないエレンがとっさに別の話題を思いつくはずもなく
美女の微笑みに気を取られるまま、根が素直な少年は思った事をそのまま口にした。


「ギンガさんと兵長って…仲良い、ですよね」


手を休めずに眉間の皺だけを深めたリヴァイからは「何くだらねぇ事いってやがる」という副音声が聞こえてきそうだ。

逆にギンガは手を止めて「そう?」と頭を傾けた。


周囲は無言で首を縦に振りエレンの意見に同意を表す。


「まぁ、リヴァイが調査兵団に入った時からの付き合いだからね」

「そうなんですか?」

「うん。もう何年になるかなー」


リヴァイとギンガの関係性は、調査兵団でも毎年新兵が来るたび話題に上る。


殺伐とした職場で、何かと目立つ2人の男女。
話題性としては十分だろう。


しかしハンジのダイナミックな求愛とリヴァイの恐怖により、どんな噂も七十五日を持たずに鎮火してしまっていたのだ。


実際のところ2人の仲はどうなのか。


今まで聞きたくても聞けなかった話題にまさかの巡って来たチャンス。

リヴァイ班の面々は新人エレンの無邪気な無遠慮に感謝の念を抱いた。



「出会いはどんな感じだったんですか?」

「出会い?えーっと…リヴァイは訓練兵上がりじゃないから、色々と教えるようにエルヴィン直々に頼まれて」

「そういやそんな事もあったな」

「巨人の生態についてはハンジに任せたんだけど…」

「話にならなかった」

「話を聞かなかったの間違いでしょ」


そういえば。あんなことも…と、ぽんぽん続いていく思い出話。

ほのぼのとした雰囲気に(リヴァイ除く)
この人類最強にも人に何かを教わる時代というものがあったのだなぁ…と感動にも似た心地に浸っていた面々に



「そういえば婚約した事もあったよねー」


「「「!!??」」」



衝撃の発言が進撃してきた。




「ごほッ!!ご、ゴホゴホッ!」

「ちょ、エレン大丈夫!?」

「こ、恋人だったん、ですか!?」

「え?何が?」

「へ、兵長とギンガさんがですよ!!」

「は?まさか!!私は恋人には人間性を重視しようと思ってるから!」

「・・・・オイギンガよ、どういう意味だ」

「だって、周囲に恵まれてないんだもの。恋人にぐらい真っ当な人間性を求めてもいいと思う」

「ま、待って下さい!じゃ、じゃあどうしてお2人がそんな、こ、婚約、なんて話に・・・」


ギンガの発言への全面的な賛成は置いておくとして。

ならばなぜ婚約という事態に陥ったのか。


リヴァイ班の面々は身を乗り出して口々に言い募った。



「憲兵の方といざこざがあって…こう、移籍とか出生とかで色々と。それで、目くらまし的な意味合いで婚約の話を出したんだよ。」

「それ、最後はどうなったんですか?」


「狂乱のハンジが完全武装で会議室に突っ込んできて、憲兵団の皆様がケツまくって逃げた。」


「「「・・・・・」」」



物語には壮絶なオチがついていた。


結婚式の場ではなかっただけよかった、のか…?



懐かしいね、あははー。と明るく笑うギンガの逞しさに涙が出そうだ。



「でも、私はあの一件で完全に婚期を逃したよ」

「ほぉ。なら今からでも貰ってやろうか」

「そうなったら今回はハンジに加えて私の可愛い妹も参戦するね。ファイト、リヴァイ!」

「・・・・・」


難易度がホップステップを飛ばしてジャンプした。


これは遠回しのNOなのか。そうなのかギンガよ。




一同の脳裏によぎるのは
「私は貴様を許しはしない!」と叫びながら両手に銃と剣を持ち、最愛の姉の結婚相手を斬滅しにくる凶王ミカサ。


この予想は多分そんなに間違っていない。



「残念な所ばっか似やがって。物騒すぎんだよお前等姉妹は」

「え?ミカサと私が似てるって?やだなぁ照れる〜」


うふふ、とわざとらしく笑うギンガの頭を小突くと、リヴァイは深々とした溜息を吐きだした。




2人の関係性の謎は深まったが、1つ明らかになったことがある。



ギンガ・アッカーマンと恋人になる条件は

巨人厨のマッドサイエンティスト(強さは分隊長レベル)を倒し
歴代の中でも逸材と呼ばれるを戦闘能力を誇る妹を乗り越えなければならない、ということだ。






2013.4.30
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ