君の瞳に映る空

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そして不安は現実のものとなる。



ある日、母のおつかいで市場へと行った帰り道。

夕暮れの街道を歩き、2人で影踏みをしながら家路につく私達姉妹に、数人の男達が近づいてきた。


一目でその人間としての性質がわかるような出で立ちと、下種な表情。

東洋人目的の誘拐---つまり人買いである事を、確信せざるをえない相手だった。


体格的にも人数的にも、確実に私には勝ち目などない。

だがほんの少しの、唯一の勝気があるとすれば・・・それは地の利。


私は民家の石垣の割れ目にミカサを押しこみ、「大人に伝えて!」と1人逃がそうとした。

ミカサは1人で逃げようとせず泣きながら私に取りすがったが、それを私は許さなかった。


小さな子供1人でさえやっと通れる割れ目を、大人が通り抜けられるはずはなく、ミカサは無事に逃げられるだろう。


ならば私の成すべき事は、回り込まれてミカサが捕まらないように、誰かが来てくれるまでの時間稼ぎをする事だ。



しかし、その時の私にできたことなど何もなかった。


一般的な子供よりも精神が発達しているからと、どこかで驕っていたのかもしれない。


戦闘の訓練など受けたことが無い私の抵抗など微々たるもので、物の数十分で私の抵抗は無に帰した。


ミカサが逃げられた事は本当に幸運だった。



そして、更なる幸運は続く。


手足を縛られ荷台の様な物に押し込められたまま何日間も揺られ、さぁ今から売られます、というその時に
偶然通りかかった元兵士の男性に助けられたのだ。




しかしこの時点で、私が生活していた町からはかなり離れてしまっていた。


身寄りもなく、生活の術もない

このままでは、第二第三の人買いの手に落ちるのが見えている。



私は訓練兵に志願することを決意した。


生きていくために必要なのは、衣食住の確保と護身の術。

その両方が一度に手に入るのが訓練兵という立場だ。


つまり税金を使って国に食わせてもらおう、というわけである。




この時、私は見た目が11歳程。

実際年齢はそれ以上なのだが、如何せん童顔に定評のあるアジア系の顔立ちだ。

前の世界でも日本人は年よりもかなり下に見られていたもので
私も海外旅行をした際に、入国審査でパスポートの年齢と顔とを何度も見比べられた。

西洋人にしてみれば、日本人の童顔は東洋の神秘らしい。


それはこの世界でも通用するらしく、純日本人かつ日本人でも童顔の部類である私は
自己申告11歳で、すんなりと信じられた。




助けてくれた男性---ライオネル・スミスは元調査兵団の兵士だったが、壁の向こうで右手を失い兵職からは遠のいたらしい。


しかし彼はその肉体的なハンデを負いながら、人買いから私を助けてくれた立ち回りは圧巻であった。


12歳になれば、訓練兵へと志願する。だからどうかそれまで家に置いてほしい、稽古をつけてほしい、と
私はライオネルに懇願した。



第一声で「駄目だ」と一刀両断された私だが、諦めなかった。

「保護はするが、兵士にさせるわけにはいかない」と何度言われても、私は兵士にならねばならなかった。



この世界は残酷だ


力の無いものは、蹂躙されるしかない。



訓練兵への志願を頑として諦めない私に、ライオネルは交換条件を突き付けた。


条件は、訓練兵卒業後、調査兵団へ入団すること。


もちろん私は2つ返事でこれを受けた。



ライオネルは私が調査兵団と聞けば諦めるだろうと思ったが、逆にやる気を出されて驚いた。と後に語っている。


まぁ、そうだろう。


調査兵団は天国に一番近い、つまり死亡率が群を抜いて高い兵団だ。


しかし私は入団するなら調査兵団、と決めていた。



理由はたった1つだけ。



「壁の向こうを見てみたい。」



それだけで、命をかけるには十分な理由だった。





その後私はライオネルの下で修業をつけてもらうことになるのだが、元兵士長だという彼の指導は壮絶だった。

容赦というものがまるでなかった。

ついでに、情けというものも皆無だった。


血反吐を吐いてなお走り続けることなんて当たり前。


体術を主として、剣術から馬術までを、基本から徹底的に頭ではなく身体に教え込まれたのだ。



しかし、生き延びる力をつけるためだと思えば耐えられた。



・・・・・嘘です。

ぶっちゃけ耐えられなかった。超しんどかった。


毎日、もう止めてしまおう、諦めよう、今日こそ夜逃げしてしまおうと思いながら訓練を受けていた。


こんな過酷な訓練、聖闘士志望の方々しか進んでやらないと思った。




そんな日々を過ごして、約1年




今日、私は



訓練兵入団式の場へと立っていた。







2013.4.28

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