アトランティス
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「おい!!みんな驚くなよッ!誰に会ったと思うッ!」
パンパカパーン!と言いながら大げさに1人で興奮するポルナレフを、もちろん旅の仲間は気持ちいいほど見事にスルーした。
「お久し振りですアヴドゥルさんッ!!」
「ああ!!元気そうで何よりだよルサルカ!」
ポルナレフの横をすり抜け、満面の笑みでアヴドゥルに抱きついたルサルカの背中を彼も抱き返す。
ルサルカにしたら、旅に合流するなり眉間を銃で撃たれて病院送りになり離別したのだ。
再会を喜び合う2人を微笑ましい気持ちで見つめている周囲だが、納得のいかないのはもちろんこの人で・・・
「ひっでーよなぁお前ら!この薄情者ども!!俺だけ仲間外れにするなんてよぉおッ」
「ふふ、ごめんねポルナレフ」
「いーやッ許さないね!」
「ちょ、・・わッ!?」
「おいッポルナレフ!」
いわゆる「興奮冷めやらず」なのだろう。
飛びつくように抱きついてきたポルナレフに、ルサルカの華奢な身体は簡単にグラリと揺れる。
倒れる彼女に手を貸そうとジョセフが動くよりも先に・・・
「!?痛ってぇ!!」
「じょ、承太郎・・・ごめん、ありがとう」
「・・・・ああ」
承太郎がルサルカの腰を支え、彼のスタンドであるスター・プラチナがポルナレフをルサルカから引き離し、加えてその頭に一発ガツンと制裁を与えていた。
そんな光景を見て、ジョセフは意味ありげな視線を承太郎によこす。
「・・・なんだ」
「いや?随分とルサルカを気に掛けておるようじゃと思っての〜。」
「・・・・・」
「いやいやいやぁ〜?なぁーんでもないんじゃよ?ただ、さっきも2人っきりで楽しそーに話しておったようじゃしぃ?」
「・・・チッ」
「イシシ」
自分の祖父の性質を嫌というほどよくわかっている承太郎は、弁解も反論も全て逆効果だと知っていた。
舌打ちをひとつ飛ばすと、祖父に背を向けて潜水艦へと足を進める。
ジョースター家の戦法その1「逃げるが勝ち」である。
新しく煙草を取り出し火をつけながら考えたのは、ルサルカのこと。
彼女が旅に加わって、どれぐらいが経っただろうか。
女にこの旅は無理だと頭から決めつけていた承太郎だが、既にその考えは撤回していた。
最近ではルサルカを頼りにすることさえある。
これは、いつDIOの刺客から攻撃されるかわからない旅だ。
食事中だろうが睡眠中だろうが、はたまた入浴中だろうが敵は待ってなどくれない。
大げさかもしれないが、肉体的にも精神的にも気の休まる瞬間などひと時も無いのだ。
そんな中で共に過ごす時間が嵩むにつれて、気付いた。
ルサルカがこの過酷な旅の中で弱音を吐いたことは一度としてないという事に。
最初はそれが彼女の優しさであり強さであると思っていた承太郎だが、そうではないことにも気付く。
ルサルカは自分の感情を自身で折り合いを付けて解決しているのだ。
辛い事や悲しい事を全て自分の中に溜め込み1人で消化している。
何もかも全部背負って、誰にも言わずに、自分の中に隠して・・・そうして決して忘れずに、消えない傷にしてしまう。
そんな、何処か自分と似ているような彼女を放ってなどおけなかった。
頼もしく、儚い。
気高いほどに強く、しかし脆い。
ルサルカは、そんな相反する印象が完璧なバランスを保って両立している存在だった。
しかし承太郎にはそれが強くあろうとする・・・大切な者達を守ろうとする虚勢だと思えてならない。
御伽噺の人魚姫のように、いつか泡となって消えてしまうのではないかと。
そんな、らしくもないことを考えてしまうほどだ。
だから守りたいと-------頼って欲しい、甘えて欲しいと思う・・・・・他でもない自分に。
夢を語るルサルカは目もくらむような眩しさと美しさを誇っていて、新たな一面を知るたびに、彼女をもっと知りたいという欲が溢れ出る。
「本当に潜水艦を購入したんですか!?」
「ああ、アラブの大富豪のふりをしてな」
「えッ!!本当にこれ・・・い、一体どれだけの金額・・・」
「フフフ、ルサルカが行ったんじゃあないか。紅海を横断するなら潜水艦があればいいのに、と」
「た、確かに言いましたけれども…」
マンマミーア。と小さく呟く声は初めて聞く途方に暮れたような響きだ。
しかし「すげぇーッ!!」と目を輝かせるポルナレフに触発されたのか、ルサルカもワクワクした様子を隠し切れていない。
この旅が終わったら、アトランティスでも竜宮城でも好きなだけ探せばいい。
その時は自分も一緒に海に行こう。
そんな未来も、悪くない。
2013.11.05