アトランティス
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ラクダに乗って砂漠を移動中、『太陽』のスタンドと遭遇することになる。
沈まぬ太陽に、砂漠の真中で干乾びてしまうのではと恐怖を覚えるが、トリックに気づいてしまえば間抜けなスタンド。
スタンド使いの名も知らぬまま、あっさりと倒してしまったのである。
一行は無事辿り着いたヤプリーンの村でセスナ機を購入し、先へと進むことになった。
「セスナ、か」
「飛行機、だね」
「なぁ、まさかまた堕ち・・・」
「シッ!最後まで言わせないぞポルナレフ!!」
一同が一抹の・・・否、確かな不安を覚える中、ジョセフだけが嬉々としてセスナの売り主と交渉していた。
「乗り込んだ飛行機は必ず墜落する」というジンクスを持つ男、ジョセフ・ジョースター。
そんな男に操縦桿を握らせるのは不安しかない。
不安しかないが、一行の中にセスナの操縦をできる人物は彼以外にいない。
ルサルカは、今までは海洋調査に必要なダイビングや船の操縦の資格しか取っていなかったが
この旅が終わったら、飛行機の運転技術を身につけようと固く誓った。
「今さらセスナが売れんとはどーいうことだー!?」
しかし、聞こえてきた不穏な叫びに、彼らはジョセフの元へと駆けつける。
そこでセスナの売り主が言うには、赤ん坊が高熱を出しており、売る予定だったこのセナスで病院へ連れていかなければならないということだ。
それ以外の移動手段が無いのだから、急を要する赤ん坊を優先するのは当然のこと。
しかしながら彼等とて、ホリィの命が掛っている。
先を急ぐ理由に、これ以上のものはない。
交渉の末、赤ん坊を病院に連れていくことを条件にセスナを買い取ることになったのである。
皆がセスナに乗り込む準備をする中、ルサルカは赤ん坊を抱いていた女性の元へと駆け寄った。
「病院に着きましたらすぐに連絡致します、お母様の名前と連絡先を教えていただけますか?」
「まさか!!私はあの赤ん坊の母親じゃぁないわよ!!」
「え?でしたら、母親はどなたなのですか?」
「それは私も知らないのよぉ。偶然赤ん坊を見つけて、そしたら高熱が出てるから大変だと思って!」
「そうでしたか・・・」
「こんなこと言いたくもないんだけど、気味の悪い赤ん坊だったからね。もしかしたら、捨てられたのかも・・・」
「気味の悪い?」
「なんだか、異常に歯が鋭くとがってたのよ。まだ赤ん坊なのに!変でしょう?」
「・・・・・」
薄ら寒い予感に背筋がゾクリとするのを覚えながら、ルサルカはざわめく心を抑えつけた。
母親が明らかにならなくても、高熱の赤子を放置はできない。
セスナには乗せていくことになるだろう。
疑念と警戒を赤ん坊に向けるというのは良心が痛まないでもないのだが、それ以上に大切なことは、正しい判断を下すことだ。
他の仲間が知らない事実を知った自分が冷静でいる必要がある。
「わかりました…。では、病院に着いたらこちらであの子の身元を調べ、親元へ返せるように致します」
「お願いね!」
女性に微笑みを返しながら、ルサルカは冷静な光の宿った瞳を赤ん坊が入った籠へと向けた。
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結果としていえば、ジョセフの飛行機墜落伝説に新たな1ページが追加されることとなった。
皆ある程度覚悟していたこととはいえ、本当に墜落するとなると、やはり疲労と心労が折り重なる。
だが花京院の疲れ具合は、それだけではないような気がした。
「花京院君」
「・・・・」
「花京院君!!」
「うわぁあっ!!あ、ルサルカさん・・・・」
「大丈夫?顔色が悪いよ」
「疲れているだけですよ。それに、僕のせいでこんなことになってしまって・・・」
「そんなことはないわ」
弱々しくもみえる微笑は、ただ疲れているだけとは思えない。
ルサルカは彼の隣りに腰を下ろすと、何も言わずにただ花京院あ話し出すのを待っていた。
「本当にすみません。ルサルカさんに怪我はありませんでしたか?」
「大丈夫。私よりも、花京院君の体調は大丈夫なの?覚えていないと思うけれど、セスナの中でも大分魘されていたのよ」
「悪夢を…見ていたんです」
「悪夢?」
花京院らしからぬ抽象的な言葉だ。
言った本人も恥じ入るように「すみません、こんなこと」と再び謝っている。
「どんな夢だったのか聞いてもいい?ほら、悪い夢は人に話すと良いと言うし」
「それが・・・どんな夢だったかは覚えていなくて」
「そっか。それなら、無理に思い出そうとする必要はないんじゃない?」
「いえ、だけど、何かひっかかるような…思い出さなくてはいけない事があるような気がして…」
そう言い再び黙り込んでしまった彼に、ルサルカも口を閉じ夜空を見上げる。
周囲に遮るものの何もない砂漠の真ん中で、夜空の星は燃えるように輝いて見えた。
2013.4.8