スキャンダル
□王様と
1ページ/1ページ
このシンドリア王国にてアラジン、アリババ、そしてモルジアナと再会し
国王主従との対面を果たしてからもう2週間程が経過しただろうか。
あれ以来何度か会うこともあったのだが、私は自分の素性を国主並びに八人将と呼ばれる側近達の誰にも明かしていない。
そしてこの先、自分から望んで話すこともないだろう。
あの3人は迷宮を共にした際に私が錬金術師であることを知ったが
彼等には「この国の誰にも言わないで欲しい」と、それとなく口止めしておいた。
しかし総じて秘密とは、いつかは暴かれるもの。
聞いた話によると、王主従はジュダルと面識があるらしくバルバッドでも会っているようだし。
何らかの形で己の能力が露見してしまう前に、この国を出た方がいいだろう。
シンドリア王国の街を歩けば、その活気溢れた平和な暮らしぶりを目の当たりにできる。
大人たちは笑顔で仕事をし、子供たちは元気よく遊び、市場は食べ物で溢れている。
そして国民たちは口々に国王を褒め称え、この国の誇りだと、「こうして平和に暮らせるのは、シンドバッド王のおかげだ」と口を揃えた。
事実それはその通りなのだろう。
このシンドリア王国は、国王・シンドバッドの犠牲とも呼べる献身によって平和が成り立っているように思えてならない。
アリババはそんなシンドリア王をよく慕っており、故郷を救われ食客として迎え入れられたことに多大なる恩を感じているようだ。
誰かに助けてもらったならば、その恩を返すために尽くしたいと思うのが人の常。
それも情に厚く真直ぐなアリババならば、尚更だろう。
現に、八人将のシンドリア王に対する忠義は盲目で、崇拝さえも感じられる。
しかし私は気付いてしまった。
その‘素晴らしい’シンドリア王は、総てを----アラジンを、アリババを、モルジアナを、そして白龍皇子と紅玉姫を利用しようとしていることに。
そのカリスマ性で、容姿で、言葉で、権力で、実力で
純粋な心に付け込み、駒を揃え、何処よりも巨大な・・・・・そう、他のどの国もシンドリア王国には手出しできないような力を欲しているのだと。
だが、シンドリア国民には、彼の行いを咎める権利などない。
王がその穢れた罪を一身に背負ってくれている故に、彼等は笑って日々の生活を送れているのだから。
私が食客の誘いを拒んだ上、必要以上の関わりを持たないようにしているのはそのせいだ。
一度でも彼の恩恵を受けたならば、その分彼に返さなくてはいけなくなる。
慣れ親しんだ言葉で言うならば、それは等価交換。
私に望まれる等価はもちろん-----錬金術に他ならないだろう。
もしも私が彼の立場で、錬金術師なんてものが突如現れたら
利用価値を見出し次第、捕らえて国に縛り付けておくだろう。
そして何よりも、決して他国に流すわけにはいかない。
特に----煌帝国には。
今思えば煌帝国は、人の事を何かの実験体のように観察してきた例の組織を抜きにすれば、居心地が良かった。
ジュダルは認めたくはないが、中二病的な意味で通じ合える物があったし
紅覇との戦闘のおかげで身体は鈍らなかったし、ストレスの解消にもなってくれた。
紅明殿には何かと良くして頂き、お茶の席に招いてくれて
そして紅炎様は、私の求める総てのモノを与えてくれた。
そう。私という人間は恐らく、崇高な目的を掲げ猛進するような戦いの中でしか生きられない。
シンドリアの平和を苦痛だと思う前に、早く次の国へ行ったほうがいいのだろう。
こんな自分が嫌になることもある。
幸せにはなれないだろう、と自覚もしている。
だけど。シンドリア王に垣間見える、黒い破滅の影。
それが何を意味しているのか、知らないふりをしていたいのだ。
2013.4.22