スキャンダル
□あの娘と第三皇子
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最近、煌帝国第三皇子の機嫌はすこぶる良好だ。
その理由は簡単、美しいお気に入りができて退屈しないからである。
最近の紅覇のお気に入りことマキナ・ヴォルフガングとは、初対面からセンセーショナルな出会いだったのは間違いない。
紅覇が出向くような大きな戦も無く、暇を持て余していたある日。
久しぶりに神官に相手でもしてもらおうと金属器片手に出向いた先で見たのは、目的の神官----ジュダルと、見知らぬ女が激しくも美しい戦闘を繰り広げている光景だった。
見知らぬ女----この国では珍しい金髪に翡翠色の瞳、白皙の肌を持つ美女だ。
その女は見たことのない術を駆使しており
地が裂けてジュダルが体勢を崩したかと思えば、その地面が壁のように盛り上がり攻撃を防いだ。
そして女がパンッと両手を打ち鳴らすと、吹き上がった蛇のごとき炎の渦がジュダルの氷塊を食らっていく。
宙を駆けるジュダルを追うように、隆起した地面を使って女が飛ぶ。
ジュダルの放った氷の飛礫を、女が何かの飛び道具(後で聞けば、それは銃というらしい)で打ち砕いた。
見れば、ジュダルは笑っている
女も笑っている
紅覇は、自分の心臓の鼓動が跳ね上がるのを感じていた。
身体の奥底から沸きあがってくる喜びにも似た熱。
敵か味方か、これが戦闘か手合わせかなどは既にどうでもいい。
「----------ッ!!」
声にならないような絶叫を上げ、紅覇は己の得物を解放した。
そうして興奮を抑えきれずに参戦したはいいが
ひと段落着いた後に顔を合わせれば当然、お互いの口からでた言葉は「誰?」であった。
それがファーストインパクト。
+++++
「ねぇ、着てみてよ」
「今?・・・わかった、じゃあちょっと着替えてくるから待っ・・・・・・・」
「マキナ〜?」
「ねぇ、これ・・・・どう見ても布の面積が足りないんですけど」
「嬉しいでしょぉ?僕とおそろいなんだから!」
「しかもなんか、すごく肌触りの良い布地だけど…」
「当たり前じゃん。ぜ〜んぶ、絹で作らせたんだもん」
「絹・・・シルクってこと!?」
春の日差しも麗らかな午後。
王宮の一室には、差し出された服を前に押し問答をするマキナと紅覇の姿が見られた。
「返品希望です」
「え〜?何で喜ばないのぉ?僕があげるって言ってるのに。女は着飾るのが好きでしょう?しかも僕とおそろいだし」
「最後が一番問題なのですが皇子様」
「いいからぁ〜はい、ここに座って!!」
渋るマキナを無理やり引っ張り、鏡の前に座らせる。
豪華な細工が施された大鏡台の前に並ぶのは、白粉に口紅、アイシャドーにチーク・・・つまりは化粧道具一式。
美容が趣味だと公言する紅覇にとって、それらの使用はお手の物だ。
マキナは元々見目麗しいのだから、飾り立てればさぞ紅覇好みに美しくなってくれるだろう。と
期待に胸を膨らませて紅覇は筆を取った。
「肌白―い。陶器みたいだねぇ」
「何処触ってるの紅覇。ここはおさわりパブじゃないんだけど・・・」
「?おさわりぱぶってなぁに?」
「ごめん忘れて!!私が悪かった!!」
「まぁいいや。化粧が終わったら、髪も僕がやってあげるね〜」
あれやこれやと言いながらマキナの顔に化粧を施すと
次は髪に薔薇の香油を塗り、器用に三つ編みにして形を整えた後、バランス良く銀細工の簪を挿していく。
仕上げに爪に鮮やかな赤色のネイルを施すと、天女もかくやというほどの美女が出来上がった。
「頭が重い…」と眉を寄せるマキナを横に、紅覇は己の作り出した作品を満足そうにうっとりと眺める。
「・・・満足した?」
「とぉーっても!!」
マキナは内心で、随分金の掛かったお人形遊びだな。と悪態付く。
しかし普段の遊び(手合わせ時々戦闘)に比べれば、おままごとの方が被害が少なくて済むだろうか。
鏡の中の見慣れぬ自分に溜息をつきながら、彼女は着ている衣服をつまんでみる。
肌触り滑らかなそれは質も良く、明らかに値が張るのもなのだろう。
こちらに来てから服をどうやって手に入れるべきか迷っていたマキナにとっては渡りに船、ありがたいことだった。
まぁ、少々デザインに不満はあるが。
「服は貰ってもいいのよね?」
「もっちろん!」
「ありがとう、助かった。支払いなんだけど・・・こっちで使える貨幣は持ってないから、これでいい?」
マキナはその場で何時ものように両手を合わせると
虹色に光を乱反射する透明な石を練成し、紅覇にぽーんと投げてよこしたのだ。
「綺麗な石〜…これ何?」
「ダイヤモンド。えーっと・・・この国で言う処の金剛石?」
「!!」
改めて見るそれは、紅覇の爪ほどの大きさもあるダイヤモンド。
紅覇は錬金術を使うマキナの美しさに見惚れよく見ていなかったのだが、見間違え出なければ、術を行う前のこの金剛石はただの黒い固まり・・・・恐らく石炭だった。
そう言えば錬金術は石を金に変えるというのを聞いたことがある。
もしや、これがそうなのだろうか。
「すっごぉい!!キラキラして美しいね。ねぇ、もっとちょうだい?」
「紅覇がいい子にしてたらね」
マキナは聞き分けのない子供をたしなめる母親のように、その頭を撫でた。