スキャンダル
□トラブル
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「(こ、こいつはやべぇ!!これ以上面倒なことになる前に、何とか事態の収拾を・・・・ッ!!)」
「マキナは見目も美しいし、その上錬金術なんていう強くて綺麗な術まで使えるんだから、炎兄の傍にいて当たり前じゃん」
「紅覇ちょっとストップ!!あのですね、今更ですが私は別に紅炎様の傍にいる訳ではなく、身元引受人が・・・」
「だからお前の方こそ、身の程を知りなよブス。てゆーか不快だから消えて、今すぐ」
「だからちょっと黙っててくれないかな紅覇ぁぁあ!!」
この場を収めようとしてるのに余計なことすんな!!
釈明しようにも、紅覇がそれを阻む。
そうこうしているうちに、私の最も恐れていた事態が訪れた。
「あり?お前等何してんの?」
「(来ちゃった・・・・ッ!!)」
私は戦慄した。
ジュダルがこんなときにどんな行動を起こすか予想はできないが、事態が面倒な方向に進むことだけはわかる!!
悪化させる!!確実に!!
嗚呼・・・今すぐ逃げだしてしまいたいッ!!
「聞いてよジュダル君〜。このブスが身の程知らずにもマキナに嫉妬して、出て行けとか因縁つけてきたの」
「は?何このババァ」
「ちょ、待・・・」
「炎兄の側室なんだって〜」
「ふーん。まっ、どうでもいいけど、お前もうマキナには近づかない方がいいんじゃねぇ?お前のブスさが際立つぜ」
「てゆーかお前こそさぁ、その父親がいなくなったら即用無しになる存在だってわかってるの?」
「コイツ見るからに能無しだし、何も面白くなさそうだしなァ」
「わかったら、金輪際僕達に近づかないでよね」
「(なんちゅーことを…っ)」
貴族的なプライドも、女性としての矜持もズタボロに打ちのめされた女性は、怒りと屈辱で青くなったり赤くなったり忙しい。
しかし2人にこれだけ言われながらも一言も言い返せさないところを見て、改めてこの国での神官と皇子という立場、権力をまざまざと実感した。
「はぁ…もういいから行こう。聞いてるだけで涙出そう。紅覇、服だっけ?」
「そうだよ〜。でもジュダル君もいるんなら遊んでよ!」
「いいのか?コイツ、消してかなくて」
「危害を加えられたわけでもないし、そもそも名前すら知らないし。まぁ、特に興味もないからね」
「でもマキナ、嫌な思いをさせられたでしょ?二度とあの不細工な顔を見なくていいように、僕が消しておいてあげる」
「待て紅覇大丈夫だから。あー…犬のフンでも踏んだと思って忘れるよ」
「逞しいなぁオイ」
「では、そういうことで。行くよ2人共」
ケラケラ笑うジュダルの背を押し、腕に紅覇をぶら下げたまま、私は古代の諺に従った。
三十六計逃げるに如かず。
つまり、早々にずらかるに限る!という訳で
心の平和を保つため、戦略的撤退と決め込んだのであった。
+++++
「この度は災難でしたねマキナ殿」
例の、白塗り側室女性急襲事件の後。
一応は騒ぎを起こした身として、私は紅炎様に形式上の報告をしておいた。
しかし紅炎様は既にそのことをご存じで、嫌な予感をひしひしと感じながらも情報の出所を聞いたところ
「会議中に紅覇とジュダルが押し掛けて好きなだけ騒いでいった」とのこと・・・。
「あの2人が何を言ったかなんて聞くのも恐ろしい!」と思っていたら、
その後の紅炎様の「お前が患う事は何も無い。既に全て終わらせた」とのお言葉で、私は更なる不安を覚えることとなった。
そしてそれから数日後
件の女性は側室の立場を奪われ---つまり離縁させられ、実家に送り返された。
また、彼女の父は失脚までとはいかなくとも、宮中での地位を降格とした。
との報告を、紅明殿から聞かされた。
「もうご安心ください」と微笑む紅明殿には申し訳ないが、ちっとも安心できる要素が無い。
正直そこまでは望んでませんでした紅炎様。
以後接触禁止にでもしてくれれば儲けモンだな、ぐらいにしか考えてなかったのに。
「・・・あれ?もしかして私、傍から見るとものすごい悪女なんじゃない?」
何も知らない第三者の目から見ると、この結果は
敵対していた恋敵を返り討ちにし、挙句の果てに親子共々の地位を剥奪し王宮から追い出した。ということになるのではないだろうか。
「そうか。こうして歴史の悪女たちは作り上げられていくのか…」
遠い目をして呟く私に、紅明殿は何を勘違いしたのか「お疲れ様でしたね」と微笑み、手ずからお茶を渡してくれた。
「軽率な行動1つで己の身が破滅することなど、この宮城にいる人間なら誰もが知っている事ですよ」
「そうは言っても、実際に被害に遭ったわけでもないのですが…」
「でも、避けなきゃマキナが水浸しになる所だったじゃん」
「おい紅覇。何時から見てたの?ちょっと正直に言ってみな、怒らないから」
「あ。やばっ」
「いーじゃんよぉ。悪女ってゆーの、カッコイイじゃん!」
「黙れ中二!!そもそも諸悪の根源は貴方達2人だからね!?」
全ては誤解だ!私何もしてないのに!!
頭を抱えて天を仰いだ私に、きゃらきゃらと笑いながら抱きついてきた悪ガキ2人。
「もうだめだ。なにもかも手遅れだ」
「いーじゃねぇか。これで面倒な奴等はお前に近づいて来ねぇよ」
「アンタ達以上に面倒な奴等はいねーよ」
現在進行形で私にまとわり憑いている(何度も言うが、誤字にあらず)
一番面倒な2人をキッと睨み付けた。
「もうっ・・・・この悪魔めッ!!」
「第三皇子でーす」
「マギでーす」
「仲が宜しいですね」と何やら羨まし気にこちらを見る紅明殿。
そう見えてしまうのは、彼が疲れすぎているからだと思いたい。
・・・・・・そう思わないとやってられない。
2013.4.6