スキャンダル
□世界とスキャンダル
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「マキナさん・・・!!マキナおねいさんっ!!」
耳覚えのある声に導かれ、名前を呼ばれた先へ振り向いたその先には・・・
「マキナさん!!よかった、やっと会えたっすね!!」
「・・・・・ドチラサマ?」
丸々と太った子供が2人おりましたとさ。
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「アラジンもアリババも、こんなにぶくぶく太ってしまって・・・!!そんなに辛い事があったなんて・・・ッ!!」
場所はシンドリア国
国の中心たる王宮の一室には、はらはらと涙を流す1人の美女
その美女の傍らには、彼女を慰めるように寄り添う赤髪の少女・モルジアナと
涙の原因たる2人の少年が所在無さ気に座っていた。
そして少し離れた所には、4人の男が小声で話し合ってる。
「で、素性の知れぬ彼女を街から連れ帰ってきた、と?」
「んな固いこと言わなくてもいいと思いますよジャーファルさん。だって、すっげぇ美人ですし!!」
「うむ、確かに美人だな!!」
「そこの2人はちょっと黙ってて下さい。で、経緯は?」
「・・・詳しいことはそこの2人に聞いてもらわなきゃいけないんスけど----」
時は少し遡る。
シンドバッド王が煌帝国から帰国して発見したのは、最近食客に迎え入れた2人の少年が、食べ過ぎで太ってしまった姿。
その激変した姿では食客として支障が出るので、2人---アラジンとアリババは只今ダイエットの真っ最中なのだ。
そして今日はシンドバッドの「走れ」という言葉通り、ダイエットメニューの1つとして
アラジンとアリババは、王宮から城下町までマラソンをしていた。
その最中、美味しそうな甘い匂いに釣られフラフラと店へと近づいていったアラジンの瞳に映ったのは
チーシャンの街で出会い、共に迷宮を攻略した仲間の1人であるマキナの姿だった。
「そんで、マキナさんと再会したアラジンが離れなくて」
「彼女はシンドリアに着いてから今まで、旅費を貯めるために街の店で働いてたらしいっす」
迷宮で別れて以来、彼等は互いにお互いの行方を心配しあっていた。
アラジン、アリババ、モルジアナの3人はバルバットにて再会を果たし、紆余曲折を経て3人一緒にシンドリアに滞在することとなったが
マキナとだけは今の今まで再会できなかったのだ。
その結果、マキナとしては視覚的に衝撃的な再会であったが、会えて嬉しいことに変わりは無い。
王宮で待っているモルジアナも会いたいだろう、ということで
一緒に来ていたマスルールとシャルルカンの許可を取り、王宮まで同行したのだ。
「なるほど、彼女も迷宮攻略者の1人という訳か…」
「見たところ、眷属器などは所有していないようですが・・・魔法使いですか?」
「いえ、その辺はまだ聞いてないっす」
向けられる視線の強さに気づいたのだろう。
彼女は3人に何事かを言って離れ、王の眼前に歩み寄ると丁寧に礼をとった。
「お会いできて光栄です、シンドリア王。王宮に立ち入る無礼、誠に申し訳ございませんでした」
「気にしなくていいさ、アラジン達の友人なんだろう?会えて良かった」
それもこんなに美人なら大歓迎だ!!と笑いながら言うシンドバッドに対し
しかしマキナは礼をとったまま態度を崩さなかった。
「俺はシンドバッド。君の名前を教えてくれないか?」
「マキナ・ヴォルフガングと申します」
握手を求められ、ようやく彼女は顔を上げた。
王を前に緊張し萎縮しているのかと思っていたが、その美しい顔には動揺が見られない。
「ようこそシンドリアへ。私は政務官のジャーファルと申します」
王の横に並ぶジャーファルもその手を差し出す。
しかし表面上はにこやかながら、その瞳は油断無く目の前の美女を観察していた。
「さっそくで申し訳ないのですが、貴女はアラジン達と共に迷宮を攻略したと聞きましたが・・・」
「ええ、文字にすればその通りなのですが」
ここで一旦言葉を切ったマキナは苦笑して、3人の方を向いた。
「私は迷宮に入るつもりも攻略するつもりもなかったのですが、成り行きで巻き込まれることになってしまいました」
滅多にできない体験でしたね。と苦笑する彼女の瞳に嘘はない。
「金属器の類は付けていらっしゃらないようですが・・・」
「はい。私は術を使いますので」
「なるほど」
「では、君はチーシャンの生まれなのか?迷宮で飛ばされて帰るための路銀が必要ならば、できるかぎり協力するが」
「いえ・・・」
そこで初めてマキナは言いにくそうに言葉に詰り、次の言葉を選ぶように視線を彷徨わせた。
「私は国で軍人として軍に所属しておりましたが、その---祖国がなくなってしまい・・・」
「難民、というわけですか・・・」
「・・・はい」
この世界には国が無いわけだから、まぁ難民と言っても差し支えはないだろう。
マキナのそんな心の声など聞こえるはずも無いシンドリア勢は、かける言葉に詰る。
今のこの時代、世界の異変と呼ばれるものに起因し、国を失った人間は決して少なくはないのだ。
アリババは、場の空気が一気に重たくなるのを感じていた。
「・・・シンドリアに来る前はどこに?」
「あ、僕知ってるよ!!マキナおねいさんはカゴノトリだったんだよね?」
「「!!」」
そんな中、何の前触れも無く
無邪気な声で爆弾が投下された。
「おいっ、アラジンッ!?」
「アラジン!?そんな言葉何処で覚えてきたの!?」
「アリババさんが言っていましたよね」
「え・・・・・」
「ち、違・・ッ!だって、ずっと同じ場所で軟禁されてたって言うから・・・!!」
「表現的に間違ってはいないけど…」
「それで、カゴノトリってどういう意味なんだい?」
「あー…言い出したアリババに聞いてみよっか」
「ちょ、知らなくていい!!アラジンはまだ知らなくていいからな!」
「・・・・・」
「モルジアナ、そんな目で見ないでくれ!!」
アラジンの声を切欠に今までの空気を一掃して騒ぐ4人を尻目に
シンドバットやジャーファルの頭の中では
祖国を守るために軍に所属していたが敵国に国を滅ぼされ、その美貌故に『籠の鳥』・・・敵国の将に囚われた哀れな女性像が出来上がった。
国に携わる彼等には、囚われの身となった女性の処遇がどういうものかなど、想像に難くない。
女性ながらに国のため、軍に身をおいていたのだ。
それほど国を愛していたのに、その祖国を滅ぼした敵国の虜囚となるのは----どれほどの屈辱と苦痛だっただろう。
ジャーファルはマキナからそっと目を逸らした。
逆にシンドバッドは、目の前の美女が籠の鳥となる光景を想像して目が離せなくなっていた。
割と最低な男である。
付け加えると、シャルルカンの思考は後者で、マスルールは前者だった。
「それは…お辛かったでしょうに」
「・・・・・」
ジャーファルからの精一杯の労いに、マキナの記憶が約3ヶ月前----煌帝国にいた頃のものへと遡る。
確かに、ジュダルと紅覇の相手は辛かった。
会うたびに、やれ遊べ構え戦えと迫ってくる子供2人に
一撃必殺となる技やサブマシンガンを錬成してぶっ放す、という選択肢もあったのだが
方や一国の神官、方や一国の第三皇子
下手に怪我を負わせるわけにもいかず力をセーブしながら戦えど、相手は煌帝国きっての戦闘狂コンビだ。
マキナが手加減していることなど早々に見切り、もっと戦え、もっとその力を見せろ、もっと遊べ!!と
朝と言わず夜と言わず追いかけまわされた。
また、ある朝目が覚めて同じ布団に紅覇が入って寝ていた時は、流石のマキナも飛び上がるほどに驚いて
涙混じりに紅炎に訴えを起こしたのだが
「ならば俺の寝所で共寝するか?そこなら紅覇もジュダルも入っては来れまい。」と斜め上の御返答を賜り
「運命を呪う」の意味をちょっと理解しかけたマキナだった。
「それは・・・・・・・・いえ、ある皇子の慈悲でこうして出国できましたし・・・」
あまりに遠い目をしたかと思うと何かを堪えるように沈黙し、その後自分に言い聞かせるように呟いた
美女のその痛ましい姿に
ジャーファルもそれ以上の込み入った話をはばかられる。
「あの、アラジン達はこちらの王宮で食客として招かれているのですよね?」
「ああ、そうだ。バルバットでの話は聞いているのか?」
「はい。3人が聞かせてくれました。それで、私が3人に会いにこちらへ来ることは可能ですか?普段は街の店で働いているので、そう頻繁には来れませんが・・・もちろん、王宮へ入る手続きやボディチェックなどは全て受けます」
「いや、大丈夫だ。王宮にはこの国の国民も何かあれば訪れる。マキナも気にせず俺やアラジン達に会いに来てくれ!」
「誰かに声を掛けてくだされば、アラジン達を呼んできてくれると思いますよ」
「!!ありがとうございます」
「やった!!じゃあ早く痩せないとな、アラジン!!」
「そうだね、アリババ君!!ねぇマキナさん、僕たち待ってるから、絶対に会いに来ておくれよ」
「あの・・・待ってます、マキナさん」
「ええ。勿論来るわ」
笑顔で笑いあう4人の姿に頬を緩めるシンドリア主従。
兎にも角にもこれでこれより先、マキナはシンドリア王宮に度々出没することとなる。
2013.3.16