深海少女2

□真夏の夜の悪夢
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古今東西古より


此の世で一番恐ろしいものとは----



【真夏の夜の悪夢】



「そしたら、次の瞬間・・・・」

ごくり

誰かが咽を鳴らし唾を飲み込む音が、いやに大きく聞こえた。


「壁一面にびっしりと赤い子供の手形が付いてたんだよぃ」

「う、うわぁ……」

「やっぱり!!やっぱりそうだと思ったんスよ!!」

薄暗い部屋には、仁王雅治、丸井ブン太、切原赤也、そして柊羽音#

4人は中心に置いた懐中電灯を囲み円になり、夏の夜の風物詩の1つ---怪談話を楽しんでいた。


大げさに怖がる赤也に、語り部となった丸井も満足そうに鼻をならしたが
それを見て薄く笑った仁王が、羽音に目配せをする。



ぽん



「ぎゃぁああああああ!!?」

「うぉおおおお!?」


「つられて叫ぶとは、ブンちゃんもビビリやのぉ」

「なんてことするんスか仁王先輩!!このタイミングでとかシャレになんないっすよ!?」

「お前さんがあんまりのも羽音にべったりなんでなぁ」

「いや、悪化したんだけど」

話の最中も羽音の腕に張り付いていた赤也は、今の攻撃で完全に抱きつく状態にシフトチェンジしていた。

怪談話に便乗し、肩に手をのせて怖がらせるのは常套手段だというが
その使い古された方法だからこそ、効果は大きかったらしい。

目を赤くしながら抱きつく赤也に苦笑して、離そうとしたその時



「ねぇ」


ぽん



仁王と羽音の肩に乗ったのは、一本の白い手


一拍の後


「うおぉおおおおおお!?」

「ふぁああああああ!?」


飛び上がりそうな程驚いた2人は、反射的に抱き合いながらズサァッと勢いよく後ずさった。


「ゆ、幸村・・・っ!!」

「ちょ、・・マジで・・・ッ!!」

よほど驚いたのか言葉が単語になっている仁王と羽音を見て、幸村は夏風のように爽やかに笑った。


「楽しそうなことしてるね。俺も混ぜてよ」

怪談なら得意だ。と浮かべた笑顔に、赤也と丸井はすくみあがる。


「幸村君の存在自体が恐怖だわ…」

「お前さんより怖いモンは滅多になか」


驚かされた2人は悔しそうに悪態をついた。


「ひどいなぁ・・・・あ、そうだ!!今から肝試しに行こうか♪」

「「今から!?」」

恐怖はもう十分味わったので、後はふかふかの布団に入って深い眠りに尽きたい…というささやかな願いはここに潰えた。





「騒ぎすぎだぞ」

ガラッと音を立てて開いた扉から、新たな登場人物(被害者)がやってくる。

部屋のドアを開けた柳蓮二は、ノックをしなかったことを猛烈に後悔した。


彼は自身の目に飛び込んだ光景に一瞬固まり・・・


ガッ!!


「なんで閉めるんじゃ」

「…邪魔したようだな」


閉めようとした扉は一瞬早く、詐欺師によって遮られた。

「いやいや、邪魔なんて思わん。大歓迎じゃ」

「そうか。ではおやすみ」

「逃がさんぜよ、参謀」

道連れだ。と仁王の瞳が語る

しかし柳も負けじと扉を掴む手に力を込めた。


その、扉の開閉をめぐるギリギリの攻防戦の均衡が崩れたのは一瞬だった。

「蓮二もおいで」

鶴の一声ならぬ、神の子の勅命。

それにより、柳蓮二は途方にくれた顔をする丸井と赤也、そして顔を引きつらせた仁王と羽音のいる空間へと足を踏み入れることとなったのであった。




+++++




「怖い話をしたら霊が寄ってくるとは聞くけど・・・悪霊よりタチ悪いのを呼び寄せちゃったわね」

「参謀、お前さん除霊とかできんのか?」

「俺を何だと思っているんだ。・・・まぁ仮にできたとしても、俺の手に負える代物ではないだろうな」


「聞こえてるよ、そこ」


神をも恐れぬとはまさに彼等のことだ。

丸井は怖いもの知らずの3人に密やかな尊敬を抱かざるを得ない。



他のメンバーも起こして肝試しだ。とワクワクしている幸村を先頭に廊下を歩きながら
羽音は気になっていた事を聞いた。

「ねぇ、真田君は?」

こういうとき、まっさきに反対しそうなの彼の姿が見当たらぬとはどういうことだろう。

「肝試しなどたるんどる!!」と止めてくれる事を期待して(無理だろうが)いたのだが・・・


「ああ。真田なら小言が煩かったから---盛ってきた」

「「「・・・」」」


それはちゃんと朝になったら目覚めるお薬ですか?

ホラーがサスペンスになったりしませんか?


「惜しい人を亡くしたわね…」

「真田…しっかり成仏しんしゃい」

「俺、真田副部長のこと嫌いじゃなかったっス」


「お前たち、ほんといい度胸してるよね」


どこか楽しそうにカラカラ笑った幸村は、足を止めて羽音に向き直ると、その綺麗な顔をにっこりとさせた。


「柊は俺に遠慮がなくなったよね。やっと心を許してくれたみたいで嬉しいよ」

「私はいつでも心にATフィールドですが」

遠慮がなくなったっていうより、オブラードにつつむ余裕がなくなったのだ。

そもそも、幸村精市という男は防弾ガラスでできた心臓の持ち主であるからして
これぐらいにストレートな言葉でなければ届かないのである。


「そういえば氷帝に、心を閉ざすとかいう技を使う男がおらんかったか?」

「え。それってつまり自閉症?」

「いやだから技だって言ってんだろぃ」

「なんて迷惑な技を・・・ん?氷帝といえば・・・関東大会で足をガン見された記憶しかない」

「ほう・・・詳しく聞こうか。なぁ、精市」

「ねぇ柊、それって少し長めの黒髪に眼鏡をかけた男じゃなかった?」

「関西弁でしゃべってなかったか?」

「ドンピシャだよ。知り合いなの?」

「「「いや、他人」」」


羽音と赤也は顔を見合わせたが、知らぬが仏だとスルーした。


真夏の夜は、まだまだ続く。






2013.9.21
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