深海少女

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「で、お前さんの願い事は?」

「え?あぁ・・・」


備え付けの油性ペンを片手に暫しの思案


よし。と心を決めると、私はできるだけ綺麗な文字で願いを短冊に書き込んだ



その願いは、当然・・・・





『カズヤさんと結婚できますように』





「本音書きすぎだろぃ!!」



できた。とペンを置くと同時に、叫びに近いツッコミが丸井君から投げられた。

(ちなみに、書いているのを横で見ていた仁王は爆笑している。後で見てろよ詐欺師。)



「お前何書いちゃってんの!?」

「こ、こんな願い事を誰が見るともわからない場所で書くものではありませんよ!!」

「いやだって、こんなに沢山の願い事があるのよ?これぐらいインパクトないと、空の上まで届かないって」

「ここは空気を読んで‘立海テニス部優勝’と書くべきだろぃ!!」

「勝利は自分の手で掴み取るものよ」

「良い事言ってますけど、そんな超興味なさそうな態度で言われても説得力無いっスよ!!」


貸して下さい!!と手を伸ばしてくる切原君を避け、短冊を笹に括り付ける。


夜空の星さん達
どうか乙女のささやかなる野望を叶えたまえ



「赤也は例の‘カズヤさん’を知っとったんか?」

「俺は会った事無いし名前しかしらないけど・・・よく羽音先輩が言ってるじゃないですか」


何処か拗ねたように言う切原君

彼は私を睨むように見た後、直ぐに目線を外して言った。


「だから俺、カズヤって名前が嫌いになったっス。」


漫画やドラマで‘カズヤ’っていう名前の登場人物が出てきたら、なんか好きになれません。


そんな後輩の主張に私は苦笑いを返すしかなかった。



若干の居心地の悪さを感じ、目線を逸らした先には1枚の短冊


そこには綺麗な文字で・・・




『絶対王政  幸村精市』




「・・・ぇええぇえ!?」



なんという願い事でしょう



「(いやいや織姫と彦星も困るだろ!!)」



思わず短冊を手にとってガン見した後、テニス部の面々の顔を見る

皆一様に顔色がよろしくなかった。



「ふふ、次のテニス部を担うものとして、願っておくべき事かと思ってね」

「はぁ・・・まぁ、願わなくても叶うものだとも思うけれど」

「何てこと言うんですか羽音先輩ぃいいい!!」


「この笹、可哀相だな・・・」



二次元の幸せを願われ、乙女の執念を押し付けられ
見たものを恐怖に陥れる短冊を付けられた笹



そんな散々な運命を辿った笹に向けて
桑原君がぽつりと呟いたのが、やけに印象的だった




2011/10/23
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