深海少女

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「あれ?羽音先輩?」

「切原君・・・?」



神奈川に戻った私を駅前で出迎えたのは、素晴らしいタイミングで遭遇した部活帰りの立海テニス部の面々


テニスバックを肩から下げた彼等は、切原君の声に集まるように私に視線を向けた。


会釈だけして駅構内へ急ごうとしたのだが
ブンブンと大きく手を振る2匹の小動物(切原君と丸井君)を無碍にできるはずもなく

何とか溜息を喉の奥に押し戻すと、周囲でも一際目立っている一団へと足を向けた




「こんにちは柊さん。何処かに行ってたの?」

「筝曲部の先生の講演を聴きに大阪まで。幸村達は部活帰り?」

「おう。で、今から飯でも食いに行こうかと思って」


パチン!!と風船ガムを弾かせながら、恐らく言い出したであろう彼が言う


真田君からよく許可が下りたな。と若干失礼な事を考えていると
突如として目の前に現れたのは、細長い一枚の紙



「ほい」

「ん?」


仁王から渡されたのは・・・


「短冊?」

「お前さんも何か書いていきんしゃい」


目の前にはそれなりの大きさの笹が、風に揺られサラサラと音を立てていた



「もうすぐ七夕か・・・」



駅前には道路の両脇を街路樹のように笹が囲み、自由に書ける短冊が至る所に設置されている。



「皆はどんな願い事を?」



仁王の隣に立っていた柳生君の手の中を覗き込み・・・私は後悔した




『ルルーシュが幸せになりますように』




「「・・・・」」


えらく綺麗な文字でそう・・・迷いなくそう書かれていたのだ



「えっと・・・柳生、クン・・・?」

「ええ。これが今一番の私の願いです」

「ああ・・・・・そう」

「柳生。そのルルーシュ、とは誰だ?」


外国人か?と真面目な顔で聞いてくる真田君に答えられる人はいなかった。



「ちなみに赤也。七夕の由来となる物語は知っているか?」

「え゛。い、いやぁ〜まぁ・・・」



話題を変えようとしたのか、空気を変えようとしたのか

いきなり柳君に話題を振られた切原君は、大げさに肩を揺らした。


そしてあからさまに目線を泳がせる彼


しかしそういう私も、七夕伝説の物語は知っているが
どうして引き離された夫婦の話と願い事の叶う話が結びついたのかは知らない。



さて、この可愛い後輩はどう答えるのだろうか、と
少し楽しみに様子を見守っていたところに、彼は優しげな笑顔で言い放つ。



「ふふ、俺が教えてあげるよ」

「お、おい、幸村?」


嫌な予感がしたんだろう。


桑原君が引き攣った顔で控えめな静止をかけるが、まぁ当然
この男はそんなものじゃ止まらない。



「昔々・・・ある1人の男が、天帝---天界の王様に下克上を目論み反逆を起こしたんだよ」

「マジっすか!?」

「「「(いや違うだろぉおおおおお!?)」」」


「だけど男は見事に返り討ち。そして天の川の遥か彼方に島流しにされたのさ」



出だしから明らかに脱線した話に目を剥く私達


しかし当然と言うべきか、そんな此方の様子など意にも介さず
幸村君はスラスラと話を進めていってしまう。


おい、織姫は何処行った。



「・・・七夕ってそんな戦国時代的な話だったっけ?」

「確実に違うナリ」

「バイオレンスすぎるだろい」



織田信長がどうこう言う幸村君の声が聞こえてきた。

七夕に信長公は一切関係ない。


へぇー、そうだったんスかぁ〜。と頷く後輩

こうして切原君は間違った知識を身に付けていくのだろうな…



そんな切ない思いに駆られた、中2の夏





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