深海少女
□8.5
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「羽音!!」
「!!」
掴んだ手の細さに、眩暈を起こしそうになる
見上げる表情はまさに迷子の子供の様
「反対方向へ行こうとするから、どうしようかと思ったぞ・・・」
口から出たのは、思いのほか低い声
しまった、と思ったが遅く
羽音の表情は泣くのを堪えるかのようなものだった
そんな顔をさせたいわけじゃない。
軽く噛み締められた唇は、紅く滲んでいた
「さっき、飴で切っちゃって」
ぺろり、と唇をなぞる舌先
ほんの少しだけ見えた赤い舌が、もっと紅い色を唇に広げていった。
何を考えた訳ではない
ただ、引き寄せられた
紅く濡れた其処は艶やかに
なぞった指先から伸びる赤が、口紅のように唇を彩った
反射的に少し歪んだ羽音の眉に、痛いのか、なんて事を
頭の隅でどこか他人事のように思う
いつもと違う夜祭の空間
その雰囲気に呑まれるまま、うっすらと開けていた唇に指を差し入れようとして---
ブブブブブ…
「「!!」」
金縛りが溶けたように、身体に自由が戻った
鳴り響いたのは、携帯電話のバイブ音
「・・・・・」
「カズヤ、さん?」
「・・・入江先輩からだ」
胸の奥で、溜息を殺す
取り返しの付かないことをしていたかもしれない
救いの神とも言える様なメールを開くと…
『お邪魔コアラ達はこれで消えるよ♪あとは若い2人で楽しんでね。送り狼にならず、ちゃんと家まで送ってあげるんだよ。』
「・・・・・」
「カズヤさん?」
あの人、何処かで見てるんじゃないだろうか
冷たい汗が背を伝った。
「…奏多さん達、は?」
「あっちはあっちで回るらしい・・・・行こう」
差し出した左手の指先は白い
握り返された小さな右手を捕まえると同時に、俺は自分の右手を袖に隠した。
なぜならその指先は、確かな紅い証拠を持っていたのだから
2011.9.12