深海少女

□8.5
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「・・・・・」



どうしてこうなった、と聞きたいのはこれで2回目だ



何処からか聞こえる音頭や、お好み焼きの香りに、並ぶ綿菓子やお面


祭り特有の雰囲気の中を、少し前には羽音が楽しそうに辺りを見ては何事かを話している。


そう、彼女は俺の少し前を歩いている

羽音の両脇は入江先輩と大和がガッチリ固めて隙がない



「はぁ・・・」


無意識に零した溜息を目敏く見咎めた大河内先輩は、ニヤリと悪い笑みを向けてくる


「隣にいるのが俺で悪かったなァ徳川」

「・・・・いえ」


元々、人混みなど好きではない。


そんな思いが顔に出ていたのだろうか、先輩は「何時にも増して不機嫌そうじゃな」と笑った。



前を向けば、珍しく浮ついた様子で歩く彼女



兄としか見られていない

好かれている、というよりも懐かれているような気がしてならない



そんな事を思い始めたのは何時からだっただろう



「こうしてみると、2人は兄妹みたいだよねぇ」



そして今、大和に追い討ちを掛けられた。



「そうですか?」

小さなイチゴ飴を片手に、羽音は穏やかに笑う



「同級生が油断ならない相手ばかりなので」

「そうなの?」

「本当に同い年か疑わしいですよ」

「そういえば、中学テニスはレベルが高いって聞いてますねぇ」

「羽音ちゃんはあの立海だったよね?」

「はい。テニス部は・・・とにかくすごいです」



羽音は学校での事を、不思議なぐらい自分からは言わない


だから俺も、仲の良い親友がいる、という事ぐらいしか知らなかった。


そんな彼女が、初めて自分から言った『テニス部』


恐らくそこに、仲の良い男もいるのだろう


羽音の苦笑いの中に、楽しむような感情が見えたのだから。


「・・・行くぞ」

「はい」


付き合っている男はいないだろう


彼氏が居るのならば、毎週のように土曜や休日を俺とテニスに費やす暇はないはずだ。




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