恋は戦闘
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「白亜」
呼ばれた名に、縁側に座っていた女が振り返る
さらりと風を受けて揺れたのは艶やかな黒髪
長い睫毛が影を作る瞳は、夜空よりも猶深い濃紺
端整に造作の為された容姿に、しなやかな白い肢体
その美しい人は名を呼んだ相手を観止めると、薄紅色の唇をひっそりと吊り上げた
「正面から此方に赴くとは珍しい。何かあったか----三郎?」
鈴の転がるような、というよりは落ち着いた
河のせせらぎの如き声は、少しの愉悦を含んでいた。
三郎、と呼ばれた男も笑みを混ぜて言葉を返そうとしたのだが…
「お姉様に何の御用ですか?」
「事ある毎にお姉様にちょっかいを出すのは止めてください」
「そうよ!!白亜お姉様はくノ一教室の筆頭・・・手出しは無用です!!」
「・・・相変わらずの信望振りだな」
呆れ半分恐ろしさ半分、という風に顔を引き攣らせれば
白亜はやはり面白そうにクスクスと笑いを零した
「ふふ、妾の妹達は可愛かろう?」
少し下がっておいで。と白亜が声を掛けると、彼女を護るように隠していたくノたまの後輩達はスッとその身を引いた
「して、何の用じゃ?」
「ああ---私達と組んで、6年の先輩方を倒さないか」
ザワッと動揺が走った背後を片手で制し、彼女は目線で続きを促がす
「ほら、隣り合う学年の中が悪いのは常で、私達も先輩方とは何かと衝突してただろ?」
「そうは言っても、猫がじゃれ合うようなものだったではないか」
「まぁ・・・一応上級生だ。じゃれ合いでもちょっとばかし危ない怪我をすることもあるだろ」
忍たまにおける今の最高学年6年生は何とも灰汁が強いと言うか、個性派揃いというよりむしろ変人のラインナップである。
暴君に歩く戦国作法やら不運やら…それだけで誰とわかる程
そんな暴走学年にいつも玩ばれ、振り回されているのは現5年
「私達の仲の悪さを見て、学園長が思い付いたんだよ・・・5年と6年の対抗試合を」
しかしまぁ、5年生と6年生の親交のため、というのは建前で
学園長は面白半分でまた企画を打ち立てた、という所だろう
「先輩方はいつもの6人が出てくるだろう。こっちで出るのは私と雷蔵、八左ヱ門に兵助と勘右衛門・・・つまり、1人足りない」
「ほぅ・・・」
「お前以上の適任がいるとは思えない」
親友の面をつけながらも、三郎の瞳にあるのは彼には珍しいほど真剣な光
それを正面から受け取った白亜は居住まいを直し、三郎の正面に立った。
「妾を巻き込むな、と言いたいところじゃが・・・他ならぬそなたの頼み、引き受けぬ訳は無い」
「本当か?」
「なんじゃ、意外そうじゃな」
まさかこうも簡単にOKが出るとは思わなかったのだろう
ぽかん、と間抜けに口を開けた三郎に白亜は呆れ顔だ
「いや、三顧の礼ぐらいはさせられるかと…」
「ん?したいのならば止めはせぬぞ」
「謹んでお断りだ」
「ふふ、もしも・・・」
「白亜?」
「もしも、試合中にあの---妾の可愛い妹達を泣かせた男のイチモツをうっかり切り落としたとしても、それは事故・・・そうじゃな?」
細い指先を唇に置き、妖艶に瞳を細める美女
美しくも空恐ろしい彼女の笑みに三郎は顔を引き攣らせたが
くノたまの後輩達はポーッと顔を赤くして見惚れるばかりだ。
「むろん、試合となれば無礼講であろう?」
「・・・ああ。遠慮はするだけ失礼、だろ?」
2人は同じタイミングで口元を吊り上げると、パシン!!と音を立てて掌を打ち合わせた
「「下克上、といこうじゃないか」」
2011.8.24