深海少女
□15
2ページ/2ページ
「・・・・」
「・・・・」
あれ?ここボックス席だよね?
私何時の間に合い席してた?
つーか誰?なんでガン見されてんの?
もしや幻覚かと目をぱしぱし瞬かせるが、黒髪イケメンピアス君は消えてくれない
それどころか、更に熱い視線を送られ続けている。
パニック一歩手前の私の耳に「ざ、財前・・・?」という声が隣のテーブルから聞こえたので
其方を向くと
彼等はみな口をポカーンと開けて
私の前に座っている黒髪ピアス君を凝視していた。
そういえば目の前の彼は、彼等と一緒にいたような気がする
さっきの絶頂男の隣に座っていた気がする
そしてどうやら彼等にもこの彼の行動が予想外だったようで
金髪君などは、動揺も露に私と黒髪君の顔を忙しなく見比べているようだ。
だから、何でここにいんの?
まっとうな疑問が頭に浮かぶ
しかし自分ではどう考えても答えなど出ない
私は意を決して、目の前の黒髪ピアス君に声を掛けたのだが---
「あ、あの・・・」
「お待たせいたしました。ぜんざいセットになります」
絶妙のタイミングで、注文した品が来てしまった
「あ、ありがとうございます」
「ご注文は以上でよろしいですか?」
「はい」
では、ごゆっくり。とテンプレの言葉を残し去っていったウエイトレスさん
ごゆっくりできません。今直ぐ逃げたいです。
「すみません、何か御用ですか?」
「・・・それ、何処で買いました?」
「え?」
「そのCDっすわ」
彼の視線の先には、今まさに私が広げている購入したばかりのCD
質問を質問で返された事に若干イラッとし、そして首を傾げつつも
私は会話の流れに身を任せた。
「今朝、大阪駅構内のCDショップでですが・・・」
「大阪駅・・・盲点やったわ」
悔しそうに顔を歪め、斜め下を向く彼
そんな彼を不思議そうに見ていた私の視線に促されるように
黒髪君は重たそうに口を開いた
「部活に行く前にCDショップに寄ったんですけど、ライブ抽選券付きの限定版は売り切れとったんすわ」
「ああ、なるほど…」
ここで「お前今日部活に遅刻したん、お年寄り助けたからやて言うとらんだか!?」という声が隣のテーブルから乱入した。
予想通りその声をガン無視する黒髪ピアス君。恐ろしい子。
渡りに船、とでも言う状況だろうか
なんてタイミングが良いのだろう
私はチケット抽選券を彼向きに持ち直し、そのまま差し出した
「よかったら、どうぞ」
「は?」
ポカンと口を開けた表情
複数個のピアスが付いている耳が不良っぽい雰囲気を出しているが
不意打ちの表情は中々に幼く可愛らしい。
「私、神奈川に住んでいて、今日は用事があって大阪に来ただけなんです。だから平日の夕方に大阪でライブはキツイし…それに、人混み苦手なんで行く気もなかったんですよ」
「・・・ええんですか?」
「無駄になるより格段に良いと思いません?」
当たるかわかりませんけどね。
受け取った小さな紙切れを、宝物のように目を輝かせて見つめる彼
そんな少年の姿に後輩の切原君を思い出し
もしかしたらこの子も年下なのかもしれない、と思った。
2011/8/11