深海少女2

□27
1ページ/1ページ




「ランニング…行かなくちゃー…」



ベッドの上でごろん、と寝返りを打つ。

部屋着のショートパンツから伸びる足をバタバタとばたつかせ・・・そのままボスンと下におろした。



「その前に、ご飯食べなきゃ…」



でも、今は何もやりたくない。

だるい。などという一言では足りないほどの無気力が私を襲っていた。


ベッド傍のぬいぐるみを抱え込み、身体を小さく丸める。



やだなぁ。

もう、なにもかも・・・やだなぁ・



机の上でブブブ…と震えて、連絡を知らせる携帯電話。

私はそれに手を伸ばす事すらなく、ただじっと見つめていた。

そのうちに、振動は止まった。


「・・・・・」


チカチカと光るランプ


外は夏に相応しい快晴


窓ガラス越しのそれを見上げ、私はゆっくりと眼を閉じた。





+++++





「サボり発見、ナリ」

「あー…」



保健室のベッドの上で横になりながら携帯電話をいじっていると
ベッドを仕切るカーテンが、シャッと勢いよく開かれた

顔を出したのは、よく知る悪友。



「期末テストも終わったし、後は夏休みを待つだけじゃない。」

「なら、学校ごと休めばよかったんに」

「それはどうも気が引けて…」

「お前さん、変な所で真面目じゃのぉ」


仁王は呆れたように笑っているが、授業真っ最中の今
ここにいる彼だってサボりに違いないだろう。

「体調が悪いのか」と言わない私達は、なんだかんだでお互いの事がよくわかっているのだ。



「何か言う事はないんか?」

「…優勝………おめでとう」

「ありがとさん」


それだけ言ってポンポンと私の頭を叩くと
彼はカーテンを元に戻して1つ離れたベッドへと潜り込んだ。




こういう時、仁王は助かる。



私が精神的に不安定な時は、放っておいてくれる。


それは冷たいようだが、それこそが一番ありがたい方法だとわかっているのだ。



私も仁王も、何かあれば1人で、自分の中で整理をつける。他人が入り込むのを嫌う。


この距離がちょうどよくて、ちょうど心地良い。




『返信が遅くなってすみませんでした。』


手の中の携帯電話にそう打ち込むと、私は重たくなる瞼に逆らわず睡魔に身をゆだねた。




+++++




「カズヤさん」



部活も無く、午前で終わった学校からの帰り道



最寄駅にその姿を見つけた瞬間

何故か泣きたくなるような、懐かしさが込み上げる様な----不思議な感情が湧きあがる。




今、誰よりも会いたくて、誰よりも会いたくなかった人



カズヤさんは私のトランキライザーであり、また同時に心を乱す人でもある。



顔を見てもいないのに、電話の声だけで私が不安定だと気づいてくれたその人。



「大丈夫だったんですか?お昼休みに抜け出して…」

「午後からのテニスの練習に間に合えば問題ない。昼は何か食べたか?」

「いえ、まだです」

「なら、どこかで食べながら話そう」


そう言って歩き出したカズヤさんに、咄嗟に、衝動的に---

いつも私の前を行く、その背中に縋りついた。



「どうした?」

「・・・・・・わかんないです」

「・・・そうか」



何も言わずに、何も聞かずに

それでも傍にいて、私を導いてくれる人



「もうすぐ、夏休みですね…」



少し間を置いて「楽しみだな」と言ったカズヤさんの声を聞いて
私も少しだけ、夏休みを楽しみに思うことができた。





2013.5.23

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ