BSR

□足りない
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トクトクと注がれる酒に瞳が動く
月明かりを反射させたそれは銀に光輝く

少し飲んでしまうのを、惜しいと思った



「今日はこの一杯で終わりにしましょう」

杯に注いだ視線にこの従者はもっと催促しているように映ったのだろうか
確かに酒はもっと飲みたいと思っていたが
早くも晩酌を咎められ少し不機嫌になる

「昨晩も飲んだのでしょう?少し臓を休めねばお身体に障ります」
正論を盾にされれば正直何も言えない
だがいつもなら我侭を言い、あと一杯、もう一杯だけとここで粘るのだが…

「All right」

了承した
別にこの従者の言うように体の心配をしたからとかじゃない
ただ、今晩は粘るのが億劫だった

「・・・いつもそれ位素直だと助かるのですが」

少し怪訝そうに言う
じゃあ我侭を言ってもらいたいのか
時にはこんなこともあるのだ

「では他は片付けてきます。お心が変わらない内に」

手に持った杯だけ残して全て片してしまう
余程今日の素直さを疑っているらしい
不機嫌を通り越して笑いそうになる

「……わかってねぇな小十郎」

そろそろ片付けを終えて戻ってくるだろうか
空を見れば輝く月に雲がかかり始めた
明日は雨だろうか
雨だったら政務を少しやろう、そして午後はのんびりと雨を眺めよう

「政宗様、まだお飲みになってなかったので?」
いつのまにやら
戻ってきた小十郎はまだ手に残る酒に些か驚いたようだ

「もしや体調がよろしくないのでは?」
表情が驚きから心配に変わる
そんなに今日の俺は変なのだろうか

「No…少し考え事してただけだ」
理由としては一番しっくりくるものを答えて杯を口に近づける
銀の輝きを持ったまま、酒は体内へとしまわれた

「…寝床の準備は出来ております故、今日はお休みください」
空になった杯を受け取り次は寝ろという
少し入った酒のせいもあって瞼も重い、が
何かつまらなかった
つまらない、まだ

「足りない」
「は?」

まだ、足りない

「足りねぇよ、小十郎」

一日いろんな事をした
稽古した、政務もした、飯も食った、酒も飲んだ

だけど

「先ほど今日はこれでお終いにすると申したではありませんか」
「ちげぇよ」

もっと、したいんだ

「お前が足りない」

今日はあまりお前がいなかった
触れてなっかた
寂しかった―?

「小十郎が、もっと」
「政宗…様…」

お前は違うのか?
俺が貪欲なだけなのか
小十郎がStoicなだけなのか

どちらにせよ、この手は止められない

「くれよ、欲しいんだ」
「…お望みとあらば」

首に手を回せば、小十郎は腰を抱き寄せる
触れる箇所が熱い、でも心地いい

顔がこれでもかと近くなって、俺は目を閉じる
そしてすぐに唇を吸われた
初めは軽く、そしてだんだん深く

もっと、深く
そしてもっと抱きしめて

触れ合ってないとこがないくらいに密着して

「…っふ……ぁ……ん…」

漏れでた声は少し恥ずかしいが、この行為はやめられない
小十郎の片手が後頭部を捉えて、さらに口付けが深くなる
俺もまた、整った小十郎の髪に指を絡ませ誘う











まだ、足りない−?

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