短編

□こんな時だからこそ
1ページ/1ページ








波羅宿集落の、とある民家にて。
私と、宮田さん、牧野さん、そして、何時間か前に出会った犀賀さんと、これからについて相談していた。


私と宮田さんと、牧野さんは、この世界の人間じゃない。
気絶して、目が覚めたら、信じられない事に違う次元の羽生蛇村にいた。
訳も分からず彷徨っている所を、犀賀さんに助けられたんだ。



「とりあえず、棚田方面に」

「その前に、武器の入手が」

「……。」



話し合う三人を見詰めながら、そう言えば、もう少しで友人の誕生日だったんだっけ、と思った。
その時、私は大切な事を思い出し、「あっ!!」と声を上げて立ち上がった。


「どうした」

「大事な事思い出した」

「大事な、事…?」

「私、ちょっと下に行ってきます!」

「何を言ってるんですか、ここに─…」

「聞いていない様だな」

「……そういう奴なので」





* * *




階段を下りて、キッチンへ。


「あー忘れてたホント忘れてた」


二ヶ月程前。
私は、宮田さんと牧野さんの誕生日に、ケーキを作る約束をしていた。
でも、皆忙しくて、それどころじゃなくて。
結局、おめでとうも言えずに終わってしまった。

そして、さっき拾った犀賀さんの免許証。誕生日が6月21日。宮田さん達と近いから、一緒にお祝いを。

…だから、なんとかケーキを作れないかと、材料を探しているのだ。


「…まぁ、あるわけ無いか…」

あったらあったで、日付が恐ろしい事になっているだろう。

私はショボンとうなだれながら階段を上がって、部屋に戻った。


「あ…桜ちゃん…!」

「全く、…何をしていたんですか。危ないと言っているのに」


「す、すみません…」


実は、と下へ降りた理由を話せば、三人揃って大きな溜め息を吐いた。


「この状況で、良く誕生日だの気にしていられるな…大した女性だ」

「き、気持ちは、嬉しいけど…」

「ケーキなんて、いつでも作れるでしょう。まずは、この状況を何とかしないと」

「そうですよね……うう…」


今の私はまさにKYと言うものなんだろう。
空気読まなすぎた。アホだ。


「…だが、誕生日か。会って間もない人間に、祝って貰えるとは、な…。…ありがとう、桜」

「ふふ、なんだか少し、気が紛れましたね。
元の世界に戻れたら、ケーキ、楽しみにしてるよ」

「…そうですね。それにしても、2ヶ月も前のことを今更思い出すとはな…」

「すみません…」

「とにかく、まずはこの絶望的状況を何とかしましょう。
…でないと、桜の作ったケーキが、食えませんから」



三人を見れば、優しげに微笑んでくれていた。
この絶望的な状況に、なんとか希望の光を!



「誕生日、おめでとうございました!!」



[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ