短編
□こんな時だからこそ
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波羅宿集落の、とある民家にて。
私と、宮田さん、牧野さん、そして、何時間か前に出会った犀賀さんと、これからについて相談していた。
私と宮田さんと、牧野さんは、この世界の人間じゃない。
気絶して、目が覚めたら、信じられない事に違う次元の羽生蛇村にいた。
訳も分からず彷徨っている所を、犀賀さんに助けられたんだ。
「とりあえず、棚田方面に」
「その前に、武器の入手が」
「……。」
話し合う三人を見詰めながら、そう言えば、もう少しで友人の誕生日だったんだっけ、と思った。
その時、私は大切な事を思い出し、「あっ!!」と声を上げて立ち上がった。
「どうした」
「大事な事思い出した」
「大事な、事…?」
「私、ちょっと下に行ってきます!」
「何を言ってるんですか、ここに─…」
「聞いていない様だな」
「……そういう奴なので」
* * *
階段を下りて、キッチンへ。
「あー忘れてたホント忘れてた」
二ヶ月程前。
私は、宮田さんと牧野さんの誕生日に、ケーキを作る約束をしていた。
でも、皆忙しくて、それどころじゃなくて。
結局、おめでとうも言えずに終わってしまった。
そして、さっき拾った犀賀さんの免許証。誕生日が6月21日。宮田さん達と近いから、一緒にお祝いを。
…だから、なんとかケーキを作れないかと、材料を探しているのだ。
「…まぁ、あるわけ無いか…」
あったらあったで、日付が恐ろしい事になっているだろう。
私はショボンとうなだれながら階段を上がって、部屋に戻った。
「あ…桜ちゃん…!」
「全く、…何をしていたんですか。危ないと言っているのに」
「す、すみません…」
実は、と下へ降りた理由を話せば、三人揃って大きな溜め息を吐いた。
「この状況で、良く誕生日だの気にしていられるな…大した女性だ」
「き、気持ちは、嬉しいけど…」
「ケーキなんて、いつでも作れるでしょう。まずは、この状況を何とかしないと」
「そうですよね……うう…」
今の私はまさにKYと言うものなんだろう。
空気読まなすぎた。アホだ。
「…だが、誕生日か。会って間もない人間に、祝って貰えるとは、な…。…ありがとう、桜」
「ふふ、なんだか少し、気が紛れましたね。
元の世界に戻れたら、ケーキ、楽しみにしてるよ」
「…そうですね。それにしても、2ヶ月も前のことを今更思い出すとはな…」
「すみません…」
「とにかく、まずはこの絶望的状況を何とかしましょう。
…でないと、桜の作ったケーキが、食えませんから」
三人を見れば、優しげに微笑んでくれていた。
この絶望的な状況に、なんとか希望の光を!
「誕生日、おめでとうございました!!」