短編
□愛をこめて
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最近、桜の様子がおかしい。
よそよそしいというか、むしろ俺を避けている様にも感じる。
…何か、気に障ることでもしただろうか。
思い返してみても、何も答えは出ない。
資料を見ながら考えていると、丁度、桜が院長室に入って来た。
「……、桜」
「お…お疲れ様です…」
「少し話がある」
「すみません、今、急いでいて…この資料、借りていきますね!失礼しましたっ」
そう言って、足早に院長室を出て行ってしまった。
室内には再び静寂が訪れる。
「…一体、何なんだ」
* * *
私は仕事を終え、省悟さんの家の前に来ていた。
貰ってあった合い鍵を使って、鍵を開ける。
数日ぶりに入った省悟さんの家。室内は相変わらずシンプルだ。
キッチンに向かって手を洗い、今から使う物を準備。
小麦粉、卵、ベーキングパウダー、砂糖、苺、生クリーム…
「省悟さん、喜んでくれるかな」
今日は6月21日─
省悟さんの、誕生日。
今から、省悟さんの隠れた好物であるホットケーキで、バースディケーキを作る。
この事は、彼には内緒にしてある。
彼自身、自分の誕生日の事なんて、覚えてないだろう。
ドッキリって、やってみたかったんだよね!
「さて、張り切って作りますか!」
パン、と手をたたいて、作業開始!
* * *
何枚も何枚も焼いたホットケーキの間に、生クリームと苺を挟み、それを重ねていく。
一番上のホットケーキに、デコレーションしたチョコを乗せて、ロウソクを立てれば完成!
「出来たー!!」
つう、と汗が頬を伝った。いつの間にか、結構汗を描いてたみたいだ。
まぁ、フライパンとにらめっこ状態だったからなぁ。
「─あ」
がチャリ、と玄関の鍵が開く音がした。
私は急いでロウソクに火をつけて、電気を消した。
玄関の扉が開き、中へ。鍵を閉めて、足音がキッチンへと向かって来ている。
「─何だ…?」
省悟さんはロウソクの炎に少し驚いて、キッチンの電気を付ける。
それと同時に、私は用意していたクラッカーを鳴らした。
「っ!」
「お誕生日おめでとうございます!!」
「─何だ…!?」
目を丸くして、ポカンとした表情で私とケーキを交互にを見る。
私は彼の元へ歩み寄った。
「今日、省悟さんの誕生日」
「たん………。─…ああ、そう言えば、そう、か…」
「やっぱり忘れてたんだ!」
「ああ……。…そんな事より、」
省悟さんは、少し眉根を寄せて、最近私が彼を避けていた事について聞いてきた。
確かにこの数日、露骨に避けてきたからなぁ。
「実は…省悟さんに会って話しをしちゃうと、このドッキリの事をポロッと言っちゃいそうで…」
「だから避けていた、…と」
「そ、そうです…ごめんなさい…」
そう言って頭を下げると、大きな手が私の頭の上にポンと乗った。
顔を上げれば、優しく微笑む省悟さん。
「まぁ、良い。…それで、全部帳消しだ」
そう言う彼の視線の先には、作りたての誕生日ケーキ。
「─あ、そうだ!夕飯は?」
「軽く食べたが小腹が空いたな。…それを頂こう」
「じゃあ、すぐに切りますねっ」
ケーキを切り分けて、テーブルを挟み、二人で乾杯。
「生まれてきてくれて、ありがとう」
「…ありがとう」
(ケーキ、美味しい?)
(ああ、美味いよ)
(愛情たくさん込めましたからね!)