短編

□手を繋いで
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とある夏の日曜日。
私と宮田さんは、羽生蛇村を出て、東京に来ていた。
東京の、お台場。私が行ってみたいと駄々をこねて、車で連れてきてもらった。

デートスポットと言うだけあって、カップルがたくさん。
あと、子供連れの家族。


「人、凄いですね…」

「都会だからな。…はぁ」


宮田さんは大きな溜め息を吐いた。
人混みが大嫌いな人だもんな…


「宮田さん、すみません…。やっぱり、大学の先生に車出して貰えば良かったですね…」

「車を出して貰っていたら、その先生と此処を回るつもりだったんでしょう。
そうなると、相手に迷惑が掛かる」

『うん、他の男と二人で出掛けさせるワケには、って意味かな』


最近、なんとなく宮田さんの言葉の裏が分かるようになってきた。
大学の先生…私が東京に居たときに通っていた、城聖大学の竹内先生。
メールで連絡は取ってるけど、久しぶりに会ってみたい気もする。そんな事宮田さんに言えないけど。

と、そんな事を考えて隣を見れば、宮田さんがいない事に気付く。
見れば、私のかなり先をスタスタ歩いていた。


「ちっ…ちょっと宮田さん!置いてかないで下さいよ!」


一応、デートのはずなのに…!
辺りのカップル達は腕を組んだり手を繋いだり…
私だって、そういうの、したい。


「宮田さん、ストップ!」


走って彼の元へ。無防備な左手を掴もうとした時だった。


「遅い」

「……。」


遅い、とか良いながら、ポケットに、手を入れやがりました。



* * * *


とりあえず並んで歩いて、アクアシティという建物に入った。
エスカレーターを上ると、なんだか懐かしい雰囲気の階に。

─台場一丁目商店街。


「なんか、凄い懐かしい感じですね」

「…そうだな。人は相変わらず多いが。…全く、どこからこんなに湧いてくるんだ…」

「………。」


ぶちぶち良いながらも、何だかんだで色んなオブジェやお店を見つめている。
彼なりに、楽しんではいるみたい。多分。


「うわ、凄い!硝子細工ですよ!宮田さん見て!」


グイグイと服の裾を掴むと、やめて下さい、との声が。
あれ、宮田さんの声じゃないぞ?ビクビクしながら服の主を見れば、全くしらない男の人でした。

とにかく謝って、周囲を見渡す。宮田さんの姿、確認出来ず。


「………迷子か!!」


宮田さんが、ね。
私が迷子というワケでは無い、はず。
とりあえず、迷子の迷子の宮田さんを探すため、移動を開始した。


* * *


「…いないなぁ」


なかなか見付からない。
はぁ、とため息を吐いて正面を見ると、何かを見つめる宮田さんの姿が。


「いたー!!もう、捜したじゃないですか!」

「ああ…桜か」

「桜か、じゃないですよ、もう!…何見てるん…うわ」


宮田さんが見ていたものは、ガチャガチャ。
中身は、血だらけの指先とか、目玉とか、グロテスクなモノ。
この箇所はこうじゃないとか、ああだこうだ言ってる。
うーん。内科医とは思えないよね。


「…さて、行くか」

「あ、はい。」


宮田さんは一通り語って満足したらしく、漸く動く気になってくれたらしい。
あれ、もしかして今、手を繋ぐチャンスじゃないだろうか。


「み、みや…」

「…。」

「え」


私の前に差し出された、手。
キョトンとそれを見ていると、宮田さんは溜め息を吐いた。


「手。…繋ぎたいんだろう」

「え、な、なんで」

「ここに着いてから、やたらと手を繋いでいるカップルを見ていたので。……違いますか」

「…ちっ、違わない!です!」


また手を引っ込められる前に、私は差し出されたその手を、ガッチリと掴んだ。


「へへー。なんか嬉しいな」

「それは良かった」


そう言って前を向く宮田さんは、優しく微笑んでいた。





(宮田さんも、手、繋ぎたかったんじゃないですか?)
(…馬鹿な事を言うな)
《…照れてる…?》



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