短編
□ぬくもりを。
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「すぐ、楽になるよぉぉぁあははははは!あっははははは!」
「っやだ!いや…っ!来るな!」
ある日、突然サイレンが鳴り、村人たちの様子が変わった。
皆、拳銃だの刃物だのを持ち出して、私を見るなり襲いかかってくる。
…儀式の失敗が、原因なんだろうか…。
さっきから、見付かっては逃げる。それの繰り返しで、私の体力は限界に近かった。
「はぁ、はっ、…っあ!!」
地面に転がっていた大きめの石に躓いて、大胆にも転んでしまった。
こんな時に、こんな時に…!
急いで立ちあがろうとするけど、足に力が入らない。
もう、私の足は限界だった。
バケモノと化した村人が、私に馬乗りになり、包丁を振り上げる。
もう、駄目だと、目を閉じた。最後に、会いたかったよ、…犀賀先生。
「ほら…痛くない…痛くないぃぃぃぃ〜ヒッヒグッ!…」
パァン、という音がしたと思うと、馬乗りになっていたバケモノが、突然横へと倒れ、動かなくなった。
─一体、誰が。
横になったままそんな事を考えていると、誰かが走ってくる様な音が。
また、バケモノだろうか。
なんとか上半身だけ起こして、足音がした方へと視線を向ける。
「…さ、いが、先、生…!」
「─桜、」
足音の主は、私が捜していた、犀賀先生だった。
良かった。無事だったんだ。
犀賀先生は私の方に駆け寄り、ギュ、と抱き締めてくれた。
「犀賀先生…っ」
「…無事で、良かった」
強く、私を抱き締めるその腕は、少し震えていた。
きっと、ずっと私の事を捜してくれてたんだ。私が犀賀先生を捜していた様に。
たった数時間離れていただけなのに、本当に久しぶりに会えた様な感覚。
私も彼に負けじと、強く抱きしめ返した。
「…そろそろ、此処も危ない…歩けるか?」
「あ…えっと、…は、はい」
なんとか立ってみようとしたけれど、やっぱり足がガクガクして立てそうに無い。
「す、すみません……」
「大分、疲れたきった顔をしているからな。…随分逃げ回ったんだろう」
「ずっと、追われてた様なものだったので…」
「仕方ない。……乗れ」
私の前に、後ろ向きでしゃがむ犀賀先生。乗れ、って事は、お、おんぶ…!?
「いっ、いえ!あの、なんとか歩きます!この歳で、恥ずかしいし………重いし…」
「今更、何が恥ずかしい、だ。誰が見てるワケでもない。急げ」
「…はい、」
私はおずおずと彼の背に体重を掛けた。
立つぞ、と一言言って立ち上がれば、私の視線は普段よりも大分高くなる。
「……こんな状況じゃなかったらなぁ…」
「こんな状況じゃなかったら、こんな事はしないがな」
「あはは、そうですね」
やっぱり、犀賀先生と一緒だと、安心する。私は彼の温もりをもっと感じたくて、思いきり身体を引っ付けた。
「……あまり、くっつきすぎるな。…動きづらい」
「…犀賀先生、大好き」
「…ああ、分かってるよ」
(もう少しくっついても良い?)
(どうなっても良いなら、な)