短編
□不愉快な光景
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不入谷教会。
桜はいつものように牧野と二人、クッキーをかじりながら話しをしていた。
「─そうしたら、宮田さんがっ」
「はは…仲が良いんだね」
「ただ虐められてるだけな気が…」
「そんな事、ないと思うよ、きっと─」
─コンコン
牧野が何か言いかけた時、教会のドアがノックされた。
少しして、ゆっくりとドアが開く。
「…あ」
「宮田です。神代の使いで─………桜…?」
「あれ?宮田さん。こんにちは!」
突然現れた宮田に驚く牧野。
そして、牧野の隣に桜が居ることに対して驚く宮田。
宮田はギロリ、と牧野に鋭い視線を向けた。
「ぅ…」
「桜さん。今日は、用事があると言っていませんでしたか」
「え?はい。今日は牧野さんとお話しする予定だったので」
桜がそう言うと、宮田の眉がピクリと動く。
ソレを見た牧野の肩が、ビクリと跳ねた。今すぐ、この場から逃げ出したいと、心から思った。
「そうですか。なら、俺は邪魔だったかな。…早々に用事を済ませて立ち去るとしますよ」
白衣のポケットから手紙を取り出し、牧野に渡すと、ツカツカと教会を出て行ってしまった。
残された二人に、なんとなく気まずい空気が漂う。
「な、なんか宮田さん、怒ってました、よね…!?」
「か、かなり…。あの、桜ちゃん、宮田さんの後を、追った方が…!」
「こ、怖いんですけど…!私、何かしましたかね!?何に対して怒って…」
「…きっと、私と桜ちゃんが二人きりで話しをしていたからじゃないかな…
意外に、嫉妬深いみたいだから…宮田さん」
あの宮田さんが、嫉妬。
桜は、信じられないと思ったが、とにかく謝ろうという事で、牧野に挨拶をして教会を飛び出した。
牧野はそんな彼女を見て溜め息を吐くと、小さく笑った。
「…羨ましいよ、彼女に愛されている、君が…」
* * *
宮田はただただ無表情で宮田医院への道を歩いていた。
無表情ではあるが、右手の握り拳は、力を入れすぎている為か、フルフルと震えている。
─教会で、二人きりで。いつも、そうなのか。
─用事があると言っていた日は、毎回、牧野さんと二人、教会で話しを。
─…俺には分かる、牧野さんが、僅かながら桜を気にしている事くらい。何だかんだ言っても、双子、だからな。
─桜も、無防備すぎる。牧野さんだって男だ。少しは考えたら─
「待って!宮田さん!」
「!…桜、」
ずっと、呼んでいたのだろう。やっと止まってくれた、と微笑む桜。
完璧に自分の世界に入り込んでいた為か、まったく彼女の声が聞こえていなかった様だ。
「何しに来たんですか。何か、牧野さんから伝言でも?」
「いえ、あの、宮田さん、怒ってたみたいだから、謝りたくて、」
少し辛そうに肩で息をする桜の言葉に、イラッとした表情を見せる宮田。
─謝る?何を、何に対して。
ムシャクシャする気持ちを彼女にぶつけるように、鋭い言葉が零れる。
「謝る?何か、牧野さんと疚しい事でもしていた、と言うことですか。そうだったのなら、貴女が謝るべきじゃない。
悪いのは俺だ。すみません。それでは」
言いたい事を言いきると、再び医院への道を歩き出した。
その姿を泣きそうな表情で見ていた桜は、慌てて宮田の背中に抱き付いて、足を止めさせた。
「疚しい事なんかしてません!」
「………」
「いっつも、牧野さんとは宮田さんの話しをしてるんです…。
今日は宮田さんと、こんな事があったとか、宮田さんが虐めてきたとか、…今日だって…」
宮田の腰辺りに回っている手が、そして声が、震えている。
その震える両腕を掴み、一旦自分から引き剥がすと、改めて桜の方を見つめた。
「……はぁ」
「宮田、さん…」
「…大人げなかった」
「え…?」
「教会で、牧野さんと二人、楽しそうに話す姿を見て、異様に腹が立った。」
視線を外してそう言う宮田を見て、桜は、先程牧野が言っていた事を思い出した。
『…きっと、私と桜ちゃんが二人きりで話しをしていたからじゃないかな…
意外に、嫉妬深いみたいだから…宮田さん』
─嫉妬。…やきもち。…宮田さんが。
そうだと分かると、桜はホッとして、クスりと笑った。
「…何を笑って、」
「だって、宮田さんがヤキモチ妬いてくれるなんて、思わなかったから、嬉しくて」
「ヤキモチ……」
「違いましたか?」
じっ、と自分を見つめる桜の腕を掴み、グイと引き寄せた。
「いや……違わない、な」
「なんか、嬉しいな」
「俺は、嬉しくありませんが」
「あはは、ごめんなさい」
「…俺も、すまなかった」
互いを抱き締める腕の力が、僅かに強くなった。
* * *
数日後の不入谷教会。
そこには今までとは違い、三つの影があった。
「そしたら宮田さんが新聞紙で!」
「あ、あの…宮田さん、医院の方は、大丈夫なんでしょうか…」
「ええ」
「牧野さん、聞いてます?」
「あ、う、うん、勿論…(気まずい…)」
居ずらそうに体を縮こめる牧野と、楽しそうに話をする桜、
それを見つめる宮田の姿が、そこにはあった。