短編
□こんなにもアナタに
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「ええー!?桜、彼氏居たんだぁ!」
「よ、依子、声が大きい…」
城聖大学の中庭。
私と依子は一緒にお昼ご飯の真っ最中だった。
女の子同士の話しと言えば、大抵は恋について。依子から竹内先生の素晴らしさを散々聞いた後、「桜は彼氏いんの?」と。
別に隠しておく事でも無いし、うん、と頷き、冒頭の依子の絶叫へと続くワケだ。
「何で言ってくれなかったのさ!?」
「い、いや、いっつも休み時間は竹内先生トークを聞きっぱなしだったし…」
「あ、そっか」
依子は、ハハハ、と笑うと、ずいっと身を乗り出して、どんな人なのかと聞いてきた。
うん、レンズの奥の瞳が、凄い輝いてる。
「えーと、私が生まれた村に住んでる人なんだけど、お医者さんなの」
「桜が生まれた村、って、確か結構遠いんじゃなかったっけ?あんまり会えないね…」
「二、三時間くらいで行けるよ。でも、会うのは月に2、3回くらいかな」
「えぇぇ!?」
あたしじゃ無理だぁ、と依子。確かに、依子はいっつも竹内先生の後を追っかけてるからね。いっつも一緒に居たい派、なんだろうな。
「浮気とかさ、心配になんない?あと、寂しくなんないの?」
「う、うーん…。浮気は心配した事ないなぁ…。寂しくなっても、電話があるし」
〜♪〜〜♪
私がそう言うと同時に、突然鳴りだす携帯。
画面を見れば、【宮田さん】の文字。
「あ!もしかして彼氏からだ!?」
「う、うん」
「いいよいいよ!電話出なって!」
「じゃ、じゃあ遠慮なく…」
依子はニコニコ…いや、寧ろニヤニヤしながらそう言ってくれた。そして、何かに気付いた様にバッと右を向き…
「はい、もしも…」
「あー!先生ぇー!!!」
竹内先生が居る方へと駆けて行った。
『……今のは』
「あ、も、もしもし!すみません、今の雄叫びは友達で…」
『ああ…。…大丈夫ですか』
「え、何がですか?」
『電話。していても、大丈夫かと』
なるほど、と思って「はい」と言えば、少し安心した声が返ってきた。安心した声と言っても、相変わらず棒読みなワケだけれど。
「どうしたんですか?何だか宮田さんから電話くれるの、珍しいですね」
『別に、どうと言うことはありませんが…』
「………。」
『………。』
二人して黙る。電話でこの状況は、非常に勿体無い気がしてならないのは私だけだろうか。
というか、電話での無言は、とても気まずい。
私が何か話題を出そうと「あー」だの「んー」だの言っていると、宮田さんが言い辛そうに口を開いた。
『…いつ、ですか』
「?え、っと…?何が─」
『今度はいつ、こっちに来れるのかと、聞いてるんですよ。それくらい察せ。』
─少し、驚いた。あの、独りが好きな宮田さんから、こんな台詞が飛び出すなんて。
嬉しくてニヤケているのを覚(さと)られない様に、いつも通りを装って「えーと」と手帳を取り出す。
『桜』
「はい、今確認してますから、ちょっと待」
『ニヤケてるだろう』
「え!そ、そんな事は無」
『図星だな』
ああ、ちょっと不機嫌そうな声が。まぁ、不機嫌そうなのは声だけで、実際、そうでは無いはず。
私はその話題をスルーして、予定を確認した。
「あ、今度の土日に行けそうです!」
『今度の土日…。……分かった。それまでには、仕事を何とかしておきますよ』
「…あんまり無理しないで下さいね、ちゃんと寝て、ちゃんと食事取って下さいね?」
きっと、色々と仕事が溜まってるんだろう。彼の事だから、無理してでも仕事を片付けようとするはず。
結構、自分の身体を二の次にする人だから。
『分かってますよ。最近は、しっかり睡眠も、食事もとってる』
「それなら良いんです、…あっ」
キリの良いところで、予鈴が鳴った。
急いで荷物を纏めて、立ち上がって教室へ走る。
「もうすぐ授業始まっちゃうので、この辺で」
『そうですか、学生の本業、頑張って下さい』
「宮田さんも、お仕事頑張って!」
それじゃあ、と言おうとした時だった。電話の向こうで小さく笑った声が聞こえて。
『桜』
「はい!」
『早く、会いたい』
「……!は、はい!」
『…では』
プツリ、と通話の切れた携帯電話を見て、ニヤケる顔を必死に隠しながら教室に向かった。
(私も会いたいって言えば良かった)
《あんな事を言うとは、…俺らしくない、な…》
こんなにもアナタに、依存してる。