長編
□繋がる右手
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家のドアの前で、もう一度視界ジャック。
壁と、金鎚が見える。作業に没頭しているらしい。
私は身を縮めて倉庫に向かうと、鍵を開けるためダイヤルを回した。
「0705……。……………。」
…ダメだ。開かない。
これじゃないんだ。
急いで石川宅に入って、ドアを閉めた。
─どうしたモノかな…。
腕を組んで悩んでいると、牧野さんが居る部屋の方からカチャ、カチャとボタンを押す音が。
不思議に思って部屋に入ると、牧野さんはラジオと睨めっこしているではないか。
「牧野さん…どうしたんですか?」
「あ…!良かった、無事だね…!…鍵は……?」
「開かなかったです…番号、違うみたいで。…それより、牧野さんは何を?」
話を聞けば、先ほど(心細かったらしく)ラジオの再生ボタンやら早送りやらをいじっていたら、途中で声のようなものが聞こえたとか。
秒数を見ていなかったから、どこで聞こえたか分からず、早送りと巻き戻し、再生をカチャカチャいじっていたらしい。
「……あ!牧野さん!」
「えっ!?」
閃いて声をあげると、牧野さんはビクリと肩を揺らし、私を見た。
「0705秒、なんてどうですか?」
「な、なるほど…やってみるよ…!」
巻き戻しボタンを押し、しばらく待つ。
0703秒あたりで再生を押した。
「「………」」
…─ザザッ
『1 …3 …5 …1』
「1、3、5、1…」
「これ…外の鍵の番号じゃ…!」
「そうですよね!きっとそう!私、もう一回行ってきます!」
「あ、わ、私も行くよ…!」
石川宅のドアを開けた所で一度待機。
牧野さんにバケモノの視界を見てもらう。
OKサインが出ると同時に、私は倉庫に向かった。
鍵を手に取り、先ほどの番号に変えていく。
「…1、3、5、1…」
─カチャ
「─!」
開いた!私は急いで鍵を外して倉庫の中に入った。
とりあえず扉を閉めて、当たりを見渡す。
…あるのは、薄汚れた手拭いに、ロープ。
そのくらいだ。他には大して役に立ちそうなものは無いみたい。
とりあえず、ロープと手拭いを手に持って…
「牧野さん、大丈夫そうですか?」
私の視界を覗いているであろう牧野さんに呟く。
そして、私も牧野さんの視界を覗き見れば、「大丈夫だよ」の声が。
倉庫から出て牧野さんと合流し、バス停留所まで慎重に歩いた 。
「…行き止まり…」
此処まで来て…。他の道を探すしかないんだろうか。
バケモノ達の視界を覗き見て、行けそうな道を探すけれど、どうにも行けそうな道は無い。
「あ……。上に、道が」
牧野さんがバス停の上を指差した。確かに、バス停の上に道があるみたい。…けれど。
「こ、これ…上れるんでしょうか…」
私たちの目の前に立ちはだかる障害…。明らかに私では上れない。何か足場になる物は無いものだろうか。
そうこう悩んでいるうちに、牧野さんは、よいしょとバス停の屋根に上ってしまった。
良いなぁ。身長あって力もあれば、楽々だよね。
「…あ、そういえば、倉庫に梯子があったんだ。牧野さん、私、」
「桜ちゃん、手を貸すから、上って」
上から手を差し出す牧野さん。何だか男らしく見えて、キュンとしてしまった。
差し出された手を掴むと、意外にヒョイっと屋根に上がれてしまった。
「牧野さん、力持ちなんですね!意外に!」
「い、意外……はは…。桜ちゃんが、軽いだけだよ。…行こう…!」
握った手をさり気なく握りなおしながら、引っ張られるまま道なりに向かった。
-続-