長編

□求導師
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 大字粗戸/眞魚川岸部
初日/5時03分08秒



牧野慶は八尾比沙子という求導女を探し、岸部を歩いていた。夜も更けてきた為、辺りは霧がかっているが、うっすらと明るくなってきている。
暗闇を一人歩いていた時よりも、明るいと言うだけで随分と気持ちが落ち着いた。


「八尾さん……皆、何処に…」


ぽつり、と呟くと、突然の頭痛が襲い、頭を抱える。それと同時に、視界にノイズが掛かった。


「……これは……?」


突然の出来事に同様するが、何がどうなっているのか分からない以上、どうする事も出来ない。
牧野はおずおずと足を進めた。








* * * *


 大字粗戸/眞魚川岸部
初日/5時09分12秒



「竹内先生……依子…どこ行っちゃったの……」


二人を探して随分とさ迷った。何度か、あのバケモノに遭遇しかけたけれど、目を閉じると、なんとバケモノの視界が覗ける事に気付いた。
そのお蔭で、ヤツらと遭遇せずに此処までこれたんだ。



「この先は…大丈夫かな……」

─静かに目を閉じる。
ザ…とノイズが掛かり、色々な音や視界が覗けてくる。
拳銃を手に持っているモノが一人…徘徊してるのが一人……
─それから。

ふと、一つだけ今までと違う雰囲気の視界がある事に気付いた。
声や息遣いも、アイツ等と違う。
これは、多分、人間の視界だ。私は、慎重にその人が居るであろう場所に向かった。





* * * *




視界の主を見つけるのに、時間は掛からなかった。
その黒い固まりは、私が歩いて数十秒の辺りで小さくうずくまり、頭を抱えていた。
心なしか、震えている様にも見える。
見つけてしまった以上、放置する訳にはいかない。思い切って声を掛けた。


「あの、」

「ひっ!?」


私が声を掛けた瞬間、その人は尻餅をついてしまった。
今にも泣きそうな顔をしながら私を見つめる。


「ひ、人……」

「お、驚かせてすみません……人です。安心して、って言うのも難しいですけど、…安心して下さい」


私が、立ち上がりやすい様に手を差し出すと、全身真っ黒な服の男の人は、おずおずと私の手を掴み、立ち上がった。
──…この人、何処かで…会ったことがある…様な…?

そんな気がして、顔をじっと見ていると、真っ黒い男性は、困った表情をして目をそらした。


「…とりあえず、ここに居ても良いことは無いです。…一緒に行動しませんか?
私は、神木桜って言います」

「神木さん…よ、よろしくお願い、します…私は、牧野慶です」


─牧野 慶。
牧野………


「牧野、さんって、もしかして…」

「?」



─10年前。
良く教会に遊びに行っていた私は、今、目の前にいる男性と、同じ様な服を着た求導師さんと、遊んでいた記憶がある。
よくよく考えれば、髪型もあの時と同じ、何て言ったか、…ああ、そうだ。羽生蛇ヘアー、だし。


「覚えてます、か?私、10年前まで羽生蛇村に住んでて、よく教会に遊びに行ったりしてたんですけど…」


牧野さんは少し悩んだ後、思い出した様に目を少し開いて、頷いた。


「キミが、あの、桜ちゃん…?…大きくなったね…」

「牧野さんも!…良かった、覚えててくれたんだ」

「勿論。忘れたりなんか、しないよ」


牧野さんはニコ、と笑ってみせた。
そういえば、こんな可愛らしい笑顔を全く見せない弟さんは、どうしているんだろう。
宮田さんには、いつも虐められてばかりだったな。
何だか会いたい反面、複雑な気持ちではある。
とにかく、宮田さんも、竹内先生も依子も、皆、無事で居てほしい。早く、合流しなくちゃ。
そうとなれば、じっとしていられない。



「牧野さん、行きましょう、他の人たちを探しに」

「う、うん」



何だか頼りなさゲな牧野さんの前を、慎重に歩き始めた。






-続-


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