長編

□生まれた村へ
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7月ももう終わりという、暑い夏の日。

友人の依子と、私の部屋でゴロゴロと転がってテレビを観ていると、
突然、携帯が鳴りだした。

普段あまり鳴らない携帯にビクリと反応し、私は急いで通話ボタンを押す。


「もっ、もしもし」

『神木か』

「た、竹内先生!?」

「えっ!?先生ぇ?!」


突然の先生からの電話に、私の表情は一気に引きつった。
隣に居た依子は、だらりと伸ばしていた上半身をガバッと起きあがらせ、私をジッと見つめる。

先生からの電話…
と、言ったら、私が何か悪い事をしたか…、とにかく何かしたか、しか、無い。


「あ、あの、すみませんでした」

『…何故謝るんだ。何かしたのか?』


それを聞きたいのはこっちだよ!と思い、
竹内先生にそのまま聞き返してみると、呆れた声で否定をされた。
良かった良かった。何もしてないみたいだ。

でも、そうじゃなかったら何なんだろう?
じゃあ、 何ですか?と竹内先生に聞いてみると、 先生は少し間をおいて、答えた。



『明後日、私は羽生蛇村へ調査に行こうと思っている』


─羽生蛇村。
そこは、竹内先生が生まれた村。
そして─…私が生まれた村でもある。
12歳くらいまでそこで育ったんだけど、両親が突然、行方不明になり、都会に居た親戚に引き取られた。
今は、親戚の家を出て一人暮らしをしてる。


「調査、ですか」


羽生蛇村には謎が多く、そういえば、この間、近々調査に行くとか言っていたのを思い出した。


『君の両親の事も、何か分かるかもしれない』


竹内先生の言葉に、私はゴクリと唾を飲んだ。
私の両親…。
…ある日、本当に突然、いなくなってしまった。

私は、両親の行方を捜す為、竹内先生と羽生蛇村について、大学で調査をしていた。

大学での調査では、あまり大きな情報は掴めなかった。
現地に行けるとなれば─
両親の事が、何か分かるハズ。


「先生、行きます。私も」

『確実に危険が伴う。それでも良いな?』

「─はい。」

私は大きく、首を縦に振った。






「先生ぇ!私も行きます!行っても良いですよねっ!?」

「よ、依子…!」


依子が私の側で自己主張をはじめた。
竹内先生の大きなため息が電話越しに聞こえた。


『……安野も居たのか…なんとしても、安野が来るのは阻止してくれ。詳しい事は、また夜に電話をする。じゃあな』


ブチッ



─なんて薄情な。
いや、電話の向こうにいる人に、どうにかしろと言うのも無理な話しなのだけれど。

携帯をスライドさせ閉じた途端、依子の凄まじい言葉責めが私を襲った。


果たして私は、依子を止める事が出来るんだろうか……。










-続-


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