長編
□迫り来る脅威
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さぁ進もう、と一歩踏み出したけれど、再度足を止めた。
一応、この先に危険が無いかだけ確認しておこう。
私は目を閉じ、意識を集中させた。
「──いる…」
「え…っ」
「………─よし、今のうち…。急いで移動しましょう、牧野さん」
バケモノの視界が、付近にあるらしい階段から逸れたと同時に、後ろに居る牧野さんに声を掛け、慎重に歩き出した。
階段を登りきり、体を縮めながら表通りを歩く。
食堂と思われる建物の右手から裏道へと進んだ。
とりあえず、ここで一息…。
そう思って後ろを見れば、居るはずの牧野さんの姿が、ない。
「何で─…」
パァン!!
近くで銃声が響いた。
…嫌な予感がする…。
そっと、表通りを覗いてみると、尻餅をつきながら後ずさる牧野さんと
それに銃口を向ける、バケモノ。
このままじゃ、牧野さんが。
私は先生に貰った拳銃を握りしめ、思い切り叫んだ。
相手の注意を、牧野さんから私に向けさせる為に。
「おーいっ!!」
「!桜ちゃん…!」
バケモノが、ゆっくりとこちらを向く。
尻餅をつく牧野さんを避けて、笑いながら私の方へと近付いて来る。
私は銃口をバケモノへと向けた。手が、震える。
こんなに震えた手を見るのは、生まれて初めてだ。
発表会でだって、こんなに震えなかったハズだ。
バケモノが、銃口を私に向けた。
私は引き金に指を掛けているものの、恐怖で指に力が入らず引き金が引けない。
パァン!!
本日2度目の銃声が耳に響いた。
それと同時に
───ドサッ
何かが倒れる音。
…私じゃ、ない。
「い、今だ、桜ちゃん、逃げよう…!」
いつの間にか立ち上がった牧野さんが、バケモノを後ろから突き飛ばしたみたいだった。
牧野さんは私の手を握ると、急いで裏道に入り、食堂の裏口から中へ入った。
鍵をかけ、その場にしゃがみ込む。
「はぁ、はぁ、…だ…大丈夫…?」
「……はい、ありがと、ございます……っ」
とりあえず安全だと思われる場所に着いた途端、一気に身体が震え始めた。
─怖かった。本当に、死ぬかと思った。
さっきバケモノが撃った弾丸は、私の左側にあったゴミ箱に当たっていた。
少しズレていたら、私に─…
「怖かった、です…死ぬかと……本当に、…」
「桜ちゃん…」
ガタガタと震える私の手に、同じ様に震える、少し湿った温かい手が重なった。
─そうだ、怖いのは私だけじゃない。牧野さんだって、怖かったに違いない。
「ありがとうございます…」
そうお礼を言うと、牧野さんの手がゆっくりと離れていく。
途端、なんだか不安と恐怖が押し寄せて、私は離れてしまった牧野さんの手を、ギュッと握った。
「あ、桜ちゃん…!」
「もう少しだけ、こうさせて下さい……」
そう言うと、牧野さんは頷いて、少しだけ私との距離を縮めて 手を握り返してくれた。
-続-