陽射

□陽射 《再会》
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豪奢な車内。

メフィストは口笛を吹いていたが、マリは無関心に流れる景色に顔を向けている。


「マリさん。」


彼女は、無言で声のする方に顔を向ける。
そしてメフィストは外に顔を向けたままで言った。

「すみませんが、一ヶ所寄り道させて頂きます。」
「…。」

車は道路に立っていた少年の直ぐ手前で停車した。

「…ここは……っ、」

途端に胸の奥がざわつく。

停車した車の外にあるのはこじんまりとした少し寂れたような修道院。
そしてそれに狼狽えるような表情になったマリをちらりと見たあと、メフィストが外へ出て行った―――。



「やぁ…晴れましたな。新たなる門出にふさわしい晴天だ…!」

そんな飄々と言ってのけるメフィストを訝し気に見る少年が肩に細長い物を担いでいる。
そしていつの間にか眼鏡の少年が一人加わって突然、先にいた方の少年がメフィストの胸ぐらを掴んだ。

「っうおおーいい!!」
「!」
「俺はお前らの仲間にしろっつったんだぞ!学校通いたいなんて言ってねぇ!!」

声を潜める少年の勢いが、まるで潜まっていないのを可笑しそうに人差し指を立てるメフィストが目を細めた。

「シー…。聞こえますよ?―――“祓魔師(エクソシスト)になりたい”というのならば、まず学ばなければ!」

そういうメフィストの言葉に何も言い返せなくなった少年が、悔しそうに口を噤んだ。
そして、少し嘲笑うような目をしたメフィストがパチリとウィンクをして左腕を広げた。

「生まれ育った修道院(わが家)に、別れの挨拶は済みましたか?―――…では参りましょう…。我が正十字学園へ!」



車に乗り込んできた二人の少年の目が、マリを見た。

「?…あれ、何だ人が居んぞ…?」
「フェレス卿、これはどういう…、」

一瞬、戸惑うような表情を浮かべた二人に、メフィストが優雅に足を組みニヤリと笑いながら口を開く。

「お伝えしてませんでしたが、彼女も今日から学園に通ってもらうことになってまして、―――――共にお連れすることにしました。」


すばやく燐がメフィストに声を荒げて言いはじめた。

「はぁ?!んだよそれ…」
「…っ…もしかして、…妙寺マリさん?」
「…。」
「覚えてないかな?僕らが7歳の頃に、父さんと…、南十字男子修道院の藤本獅朗神父や他の皆と一緒に改築の手伝いに行ったんだ。」

何故か興奮気味のメガネの少年に、白けた目を向けるマリはぼそぼそと呟く。

「…藤本…獅郎…。あぁ…、あの神父…」

その言葉はその隣にいたもう一人のはしゃいだ声に被ってしまって、二人の少年には聞こえなかった。

「妙寺マリ…?ってガキのころ行ったあの、ばばぁしかいない修道院の、一番うるせぇババァの後ろに隠れてた、あいつか?!」
「ッ…兄さん、言葉が悪いよ。…ってゆうか僕が今言ったんだ…。ごめんね、妙寺さん。」
「うるっせぇな、ほっとけよ!それにしても、久しぶりだな!ババァ達は元気にしてるのかよ?」

少年がマリにぐぐっと近づいて肩を叩いた。

「兄さん!!」
「!……!!!」

肩に触れられた途端、マリが目を見開いた。



「(…勘付いたか…。まあいい。)」

横目で3人の様子を眺めていたメフィストがクツリと顔を歪めながら窓の外に目を向けた。

「――…感動の再会のところ申し訳ありませんが…。まもなく、正十字学園町の中心部に到着です。」


トンネルを抜けた車は、目的地へと入って行った…。




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