陽射
□陽射 《鏡》
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「なるほど…。これは興味深い☆」
メフィストの目の前には、無残に切りつけられた者、手足の関節が可笑しな方向に曲がっている者、ステンドグラスを突き破り夥しい血を流している者、他にも誰一人息があるとは思えない、まさに惨劇。
(まったく、懲りないヤツだ。因果、か…。しかし、どうしたものか、この匂い…。)
メフィストの視線の先には血まみれの修道服に身を包んだ少女がいる。眼は薄く開いているものの恐らく何も映していない。手も、顔も血で汚れている。体はかすかに震えていた。
(私は忙しいのだけど…。)
「後のことはお任せします。―――…私は“こちら”を処理してきます。」
メフィストは少女を抱きかかえると、振り向きもせずに現場の処理をする部下たちに言うとその場を後にした―――。
扉を開けて中にあるベッドに抱えていた少女を降ろす。
(どうしたものか…。)
いつの間にか目を閉じて眠っている少女の顔を眺めながら考えていた。
(面倒なことになる前に、殺しておくか…。しかし貴重といえば貴重な存在かもしれない…。)
少女の瞼がゆっくりと開いた。
ゆるゆると視線を彷徨わせる少女と目が合った。
「初めまして、私はメフィスト・フェレス。…正十字騎士團の者です。」
「…正、十字…?」
意識がまだ完全ではないようで虚ろな返事が返ってきた。
「修道院の事は、私の部下たちが処理しています。」
その言葉を聞いた少女が電気が走ったように一瞬で青ざめ、体が震えだした。
「!!」
「何が起こったのか、解りますか?」
「…な…なに、か、が…、わた、しの、なっ中に…!」
震えを抑えるように自分の体を掻き抱く。
恐怖のせいで目が泳いでいた。
「はい…。あの時、貴女の中には“悪魔”がいました。私が駆けつけた時には、どこかに逃げたようですがね。」
少女は両手の平で顔を覆う仕草をしたが、血で汚れた手を見ると再び言葉を失い、代わりに漏れた音とともに涙を流した。
「あ…あぁ‥あ…!ぅうっ‥ぅぁぁ…」
「…落ち着いて、よく聞いてください。―――あなたの肉体、貴女の魂は、貴女に憑依した悪魔にとって、とても関係の深いモノのようです。ですから、恐らく再び同じことが起きる可能性がある…。」
少女の体はまだ震えていたが、自分の置かれた立場を説明してくれる存在がいる事に、不安な顔に、僅かに安堵の表情を滲ませ始めた。
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