短編・番外編
□正十字学園物語2
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さて、今日は待ちに待った『初任務』です!!
【その壱…奥村雪男/整理整頓】
「これって…、初任務ですよねぇ?」
「そうですよ?」
「でもなんだか、難易度が…(低いんですが…)」
ここは祓魔師専用の図書館。悪魔に関する書籍や詠唱、魔法円、悪魔薬学、さらには子供向けに書かれた本など、さまざまな書物が置いてある。
そして、今回の綾に与えられた任務は『悪魔・祓魔に関する図書の整理』だった…。雪男本人が付き添いの講師として綾と共に任務に当たっている。
雪男の後をついて歩きながら、綾は膨大な量の本が乗せられた荷台を押していた。
「…それぞれに、適材適所の任務が与えられています。綾さんの場合、力仕事に向いているとは言いがたい。
今回は初任務なので、生活態度や成績に考慮した割り振りです。こういった書籍の整理だって、立派な任務の一つですよ。それに…」
「それに、なんですか?」
「いえ…なんでも…」
雪男は数日前にかかって来た電話の内容を思い出しながら、綾から手渡された分厚い本を棚にしまう。
『 ――――― 今度の妙寺 綾さんの初任務の件ですが』
『はい、妙寺さんには志摩君と組む事になっています。多魔川に囀石を取りに…』
『その任務、妙寺さんには他の候補生とは組まない形にしていただきたい』
『…どうしてですか?これは訓練もかねてい』
『これは命令です☆』
『…分かりました…』
『さすがは奥村先生、物分りが良くて助かります。では☆』
『………』
「えぇ…と、次は、これかな…、はい、奥村先生…。?先生?」
雪男は綾が差し出す本に気付かずに、睨みつけるような目で遠くを見ていた。
その様子に、綾がそっと覗き込む。
「…もしも〜し…」
「…すみません…。はい、次はどれですか?」
「ぁ、はい、どうぞ…」
いったい、フェレス卿は何を考えているんだろう?
綾さんについて、特別な何かを知っているのだろうか?
だろうか…ではないか、フェレス卿は知っているんだ。綾さんの秘密を…。
思わず、綾を見る目が、祓魔師特有の冷たい眼差しに変わる。
綾は、それにはまったく気付く事無く、やっと自分にも届く場所の本が出てきた事に、ホッと胸を撫で下ろしていた。そして、台に登っては本をしまい、間違えている本を抜き取り、正しい場所にしまうという作業を黙々とこなしていた。
さっきはどうしても届かない位置の本だった為に、雪男の手を借りたのだ。
綾は本の背に印された番号と照らし合わせながら、棚の正しい場所に納めている。
その傍で、綾に背を向ける格好の雪男は、片手に持ったボードに何かを記していた。
眼鏡の隙間に見える伏し目がちの、影を落とす長めの睫毛…。
この間繋いだ、子供の時とは違う大きな男の人の手…。その流れる手の動きに、何の気なしに視線を移した綾はほんの一瞬、それに目を奪われてしまった。
「手が止まってますよ」
「ハッ…はい///!」
…雪君、私に背を向けていたのに何で分かったんだろう///?
ほんのり冷や汗をかきながら、綾は再び作業に没頭する。
口を真一文字に結んで頬を染めた綾の横顔を、そっと気付かれない様に笑う雪男が、またメフィストの綾に対する態度の事を考えていた。
実際、綾さんをこの正十字に連れてきたのも、祓魔塾に入れたのもフェレス卿の一存…。
前にあった蝦蟇(リーバー)の件でも、処分を決めたのはフェレス卿だ。まぁ、大した問題はなかったけど…、普通の人間なら、いくら下級悪魔でも犬のように手なずけるなんて出来ないはず。
でも、綾さんはそれをしたんだ…。
その説明は、未だされていない。
何を、隠しているんだ…フェレス卿…!
どうして…
「…――――…村先生、奥村先生…!」
気が付けば、まったく綾の声に気付かないほどに深くまで考え込んでいたようだ。
綾が台に乗ったまま雪男を見下ろして、さっきから心ここにあらずな雰囲気の雪男を、心配そうに見つめていた。
「どうし…たんですか?大丈夫ですか?」
「いえ、すみません。大丈夫ですよ。何ですか綾さん」
にっこりと微笑んで、雪男が綾に向き直った。
「この本、場所が高くて届かないので、お願いしたいなと…」
そう言って綾が示した場所は、台に乗った綾の伸ばした手が届きそうで届かない位置にあった。
フッ…と雪男が笑うと、綾から本を受けとる。
「あぁ、はい。いいですよ」
片足だけ台に乗せると、雪男は手を伸ばし、綾が手を伸ばしても叶わなかった場所にそれを納めた。
軽々と済ませた雪男に、綾は惚けた顔で呟く。
「…凄いね〜…」
「何も凄くないですよ」
「…羨ましいなぁ…私ももう少し背が高かったら…!」
「そうしたら、僕は要らなくなりますね」
「え、そんな事ないよ、雪君がいてくれないと」
「僕がいないと…何ですか?」
雪男が、隣で台に乗った綾に顔を向ける。
台に乗れば、さすがに少し綾の方が高い。けれど、雪男の上目遣いになった目線にドキンと胸の奥が跳ねるのを、綾は不思議な気持ちで感じていた。
つづく
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