短編・番外編


□正十字学園物語
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これは正十字学園に入学した、ある一年生達のお話です ―――――― 。



ある日の事、妙寺 綾は、校内を彷徨っていた。

理由は実に簡単。迷ったのだ。

方向音痴と言うほどでもないとは思うのだが、いかんせん自分の暮らしていた修道院よりも広い所で過ごす事などあまり経験がない為、この日の授業終わりに教師に呼び止められ、職員室に呼ばれた帰り道で、思いっきり迷ったのだ。因みに今は昼休み…。

教師からの用事は、綾の成績が特進科でも通用するほどの好成績である為に、現在の普通科から特進科へ編入する気はないかと言われたからだった。

実際の綾の返事は、今の普通科で過ごしたい、というものだったが、話を持ちかけた教師はいささか不満そうだった。

綾はその空気から逃げるように職員室を後にし、慌てて廊下を進んだところで、自分がどこを歩いてきたのかが分からなくなっていた…という事なのだ。


綾はフラフラとした足取りで壁伝いに足を動かした。

「(ぅぅぅ〜…っ、ここはどこなの〜?)」

すでに半泣き状態の綾は、すっかり人気のない場所に来てしまって、このまま行き倒れるんじゃないかと本気で考えていた。

すっかり迷宮に迷い込んでしまった体(てい)の綾が、進んでいる先の曲がり角の向こうに潜めるような二つの声を聞いた気がした。

まるで砂漠の中のオアシスを発見したような救われた気分になって、曲がり角をほんの少し怯えながら覗き込もうとした時、綾の耳は二つの声の『あること』に気付いて、覗くのを躊躇った。

それは男女の声で、残念ながら楽しげな話とは違うような、なにやら深刻そうな口調だった。

「(…この声、…うん、間違いないよね…あの人だ…)」



綾は意を決したように、恐る恐る、その先を覗いた…






その先にいたのは…?




 
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