短編・番外編


□素直になれますように……!
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「なんや、今日は一人なん?いつも奥村くんと居るのに」

と、あまり興味なさそうに言う志摩に、私は「待ち合わせしてるんです〜!」などと強がりを言った。

…本当は、待ち合わせなんてしていないし、燐と一緒にいるのは相談を聞いてもらっているからで…、何故かいつも、そんな時に志摩と鉢合わせをしてしまい、からかわれたりする…というパターンだった…。

「待ち合わせって事は、これからデートなんや?」

ヘラヘラと笑い返してきた志摩に「あんたに関係ないでしょ?」と言い返す私は本当に可愛くない…。

違うのに…。

本当は、志摩の事を考えていたら、一人でふらふらと街を歩いていただけなのに…。

素直に、自分の気持ちを言えたら良いのに…。

「志摩こそ、こんな所でしかも一人で、何してるの?この間の女の子はどうしたのよ?」


そうなのだ…。志摩は彼女こそ作らないが、よく女の子と遊んでいる。しかも、いつも別の女の子だ。

「志摩が女の子と一緒じゃないなんて、雨でも降るのかなぁ?」

ケラケラと笑う私は、ちゃんと笑えているだろうか?
時々見せる志摩の洞察力が恐くて、私は表情を隠そうと背を向けた。


「あぁ、そっちも待ち合わせなのか!そうだよね、あんたが一人なんて変だもん…」
「そうそう、当たりや!」

背を、向けておいてよかった…。
志摩の嬉しそうな、楽しそうな言い方に、不覚にも涙が零れてしまったから…。

「ッ…そっか…。じゃあ、私はこれで」
「好きな子に、会いに来たんや…」
「何?自慢?ノロケ話なんか聞きたくないんだけど」
「まぁええやん、そっちの待ち合わせの時間は、まだなんやろ?」

何も言えず、黙る私に志摩は話を続けた。

「何かな〜、その子付き合ってる奴いるみたいんやわ〜。これでも俺かなり傷付いてんやけどな、しかも、その彼氏が俺の友達で〜!さらにへこむわ〜!ホンマどないしよかな〜…。でもなぁ、やっぱり、諦めきれへんくて、その子に会いに来たんや…」

そんなにその子は想われているのか…私の好きな志摩に…。

羨ましいのと、失恋した悲しみと、うっかり歩いてきてしまってそんな事を聞かされている自分の立ち位置が虚しくて、また涙が出た…。

「ッ…っだったら、そんなに好きなら、伝えれば良いでしょ…ッ!」

声が、完全に涙声だ…。絶対バレてる。あぁ、もう歩いて行ってしまおう。志摩の片想いの相手に会ってしまったら、きっと、嫌な女になってしまう気がする。
そうして逃げようと足を踏み出した私の背に、志摩がまた声を投げてきた。

「…その子な…何か、急に泣いてはるんやけど、俺はどうしたらえぇんやろな?」
「…ぇ…?」
「抱き締めても、えぇと思うか?」

何の事かと口を開きかけた瞬間…、志摩の腕が私を後ろから包んでいた。

「な…に…?どういう……」
「言うたやん…。俺の好きな子が、急に泣き出したんや。こんな時に抱き締めんでいつ抱き締めるんや…」

「…言ってる意味が、分からないよ志摩…」
「えぇ〜?!まだ解らんの?」

べりっと音が鳴りそうな程、勢いよく身体を離した志摩が私をくるりと向かい合わせになるように向きを変えた。

そして、私が見た志摩の目は、いつものヘラヘラ顔はどこにもなく、真面目な、真剣な目をしていた。

「涙、流したらもったいないよ?」

志摩の唇が頬に残る涙の跡を軽く撫でた。

理解の範疇を越えている行動をする志摩に、私は放心状態で固まっていた。

そんな私に、志摩は「あれ?固まってしもた…。あぁ〜、やっぱりアカンかったかぁ…。失恋、決定か〜…」
などと呟いた。
ハッと気付いた私が、恐る恐る志摩に訊ねる。

「志摩…、志摩の好きな子って…」

「うん…。さっきも待ち合わせって言うてはったな…」
「誰と付き合ってるって?」
「奥村くん、俺の友達やねん…」
「泣いてたって…?」
「今は…大丈夫そうやね。涙、しょっぱかったわ…!」

私を腕に納めたまま、志摩がヘラヘラと笑った。
それにつられて、私も笑う。
いつも、志摩の笑顔を見るとつい笑ってしまう自分が不思議だったけど、こんなに近い場所で見る笑顔は、全く違って見えた。

「ねぇ志摩…」
「ん、何?」
「好きな子に、気持ち伝えないの…?」
「…だって俺、失恋したし…」
「してないかもよ…?」
「…ホンマ…?」
「志摩の友達は、ただの相談相手だよ…」
「えぇ〜!なんや、そうやったんや…!」
「そうだよ…。早とちり、だね」
「言うてくれたら良かったのに…」
「恥ずかしかったの!」
「じゃあ待ち合わせは…」
「冗談、だよ」
「ハハハ、悪い冗談」
「フフフ…」
「…気持ち、聞いてくれる?」
「…うん…///」
「…好きなんや。彼女に、なってくれへん?」
「フフ……、仕方ないなぁ…!なってあげるよ…!」
「ククク…可愛くないな…可愛いけど…」


そう、私は可愛いげがない…。
でも、志摩の事が…


大好き…!!!





『素直になれますように…』




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