色咲く落ち葉の化学反応

□出会い
1ページ/7ページ


踏みしめる足の下で、かさりと落ち葉が音を立てる。
いつの間にか吹きはじめた冷気を孕んだ風に、少しだけ身を竦め隣を見た。
最近寒くなりましたね、と言い、何だか照れくさくてポケットの中に手を入れて笑った。

「こんな事、普通生徒に任せることか…?」
「まぁ…。お互い頼まれちゃったんだから、仕方ないです。」

どうして俺が…、という雰囲気を悟って、私はまた一つ吹いた風に小さく呻き密かに溜め息をついた。


このヒーロー科1年のイケメン君…轟焦凍くんの隣を歩く私はサポート科1年の生徒で、木葉 茜。あの(・・)発目明のクラスメイトだ。
本来なら接点のないはずのサポート科の自分となぜ轟くんが共に連れ立って歩いているのかといえば、自分の先生であるパワーローダー先生からのお遣いでヒーロー科の担任の教師の所まで届け物をした際に…―――、

『…それくらいサポート科なら俺の手がなくても出来るだろ。男手がいるなら一人ウチの生徒をつけるよ。』

などと丸投げされてしまったせいであって、わざわざ出直し、時間と場所を指定されてやってきたこの轟くんの不満そうな態度を前にした私は、思わず笑いが噴き出した。

そして今、USJ(ウソの災害や事故ルーム)にお遣いの品を設置しに向かっているところだった。


「それにしても…忙しいのにスミマセン…。ヒーロー科は実践訓練ばっかりなんですよね?」
「……いや、そんなことない…座学もある。ヒーローの法律とか、救命救急の定義とか…って…あんたに話しても関係ないだろ。サポート科こそ時間に追われてるんじゃないのか?」

その言葉に反応に困って、あぁ…、と曖昧に笑うしかなかった。

「そんな状態なのは発目さんくらいですよ…。」
「……発目…あぁ…よく知らないけど…。」
「!ウソ…知らないんですか…?!有名人ですよ、発目さんは…!?あんな、才能のある人…なかなか居ない…っ!」

思わず声が荒く大きくなって、慌てて私は口を押さえた。
声を飲み込み、恥ずかしさで俯いた。
失敗した…、と自己嫌悪に襲われる自分の脳裏に浮かぶ、天才的なクラスメイトの発想の豊かさ。一方自分の凝り固まった思考回路に、入学して以来、自信を喪失していた。

「…はぁ〜…。才能に恵まれている人はいいですよねぇ…。きっと、この先の将来も安泰ですよ…。凄いなぁ…。」
「………。」

ついポロリと零した言葉に自分で笑えてきた。苦々しいそれが攫うように吹いてきた木枯らしに流され、残ったのはうすら寒い沈黙だけだった。

道の隅の至る所には枯れた葉が積もり、吹く風に煽られてふらふらと乱れさせる。
まるで流され、周りに翻弄されている自分を思わせて可笑しかった。
何も言わなくなってしまった付き添ってくれている轟くんも、すごい才能の持ち主だという事はよく知っている。
何故ならそれは雄英体育祭での活躍を目にしたからだ。
私だって雄英高校サポート科の端くれ。いくら落ちこぼれでも、ヒーロー科の有名人くらいは知っている。

早々に敗退した自分がモニター越しに見た、轟焦凍くんの個性の威力…。

「轟くんも、凄いですよね…。本当に…羨ましいです。轟くんみたいな個性を持ってたら、きっと将来楽なんでしょうね。」

そう言いながら笑いかけた時だった。
隣から、凍てつくような視線が返され、そして私は文字通りに凍り付き、言葉を失った。

「お前、煩いな。…さっさと済ませるぞ。下らないお喋りに付き合ってやる義理はない。」
「っ……!」

吐き捨てるようにそう言った轟くんが歩調を速め、私を置いて先に進んだ。
その過ぎていく背に、悔しさと、情けなさで涙が滲み、私は唇を噛みながら急いで追いかけた。





次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ