風花は雪の夜に
□死ぬ
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雨と風が、容赦無く身体に降りかかる。
さわさわと揺れる木々の音だけが鼓膜を刺激していた。
尽きようとする命が、最期の悪足掻きを見せるように地面の砂を握りしめた―――。
そうか……死ぬんだ…やっと、死ねる……
ただ想定外だったのは死に様か…。
出来れば誰かに看取られて、棺の中で魂を休めたかったが、…まぁ、いいか……。
…どうせ終わりだ……
思考が虚ろいでいく。まぶたは自然と重みを増して完全に閉じた。
――――その時、ふわりと頬を撫でる風に、体が軽くなる…。
何だ……………?
蒲公英の綿毛にでもなった気分だ…。
身体が勝手に風に運ばれていく。
まぶたの裏に周りの景色が変わっていく光の濃淡を感じたが、微睡みの中に漂うようにまぶたが重い……。
面倒くさい……。このままあの世にでも運んでいってくれるだろうか……そうしたら、死ぬって案外お手軽だな……。
そんなことを思った瞬間、ストンと身体が重みを増した。
その感覚にハッとして思わず目を見開いた。
「?!」
目の前に広がるのは死に際までいた場所とは似ても似つかない、普通であれば幼い子供たちが無邪気に戯れる、小さな公園……。
しかも、よりにもよってジャングルジムの天辺に、もたれ掛かるように掴まっていた。
「ッ…?!?!は…はぁ…?!」
何が起こったと言うのか……、混乱する頭をどうにか落ち着けようと、取り敢えずジャングルジムに絡まった身を起こす。
「…ンだ…、これ…どうなってんだ……」
公園内に子供たちの姿は見当たらない。すでに夕暮れに近い時間だからだろう、閑散とした空気が、時折そよぐ風のせいで冷気を纏う……。
薄闇に、じくじくとそこかしこから何かが這い出てきた。
決して楽しげには感じられないそれは、こちらに目玉を剥き出しにしてくたりと嗤った。
「な、なんか……、ヤバい感じ……?」
ヒヤリと背に悪寒を感じる。言い様のない恐怖も…。
逃げよう……!そう決心した瞬間、頭上から声が降り注いだ。
「おい」
次いで今度は地面の方から…。
「夜ト、早くしろよ!」
「分かってるって、少し待ってろ雪!」
降り仰いだ視界に、黒いジャージにボロボロのスカーフを襟元に巻き付けた男が、自分を跨ぐように立って見下ろしていた。
「な…なにアンタ……」
「俺は夜ト。神だ」
何だこいつ、神…?頭ん中に蟲でも沸いてんじゃね?
足元で、自称神の連れらしい少年が呆れたように溜め息を吐きながら頭を抱えた。
「夜ト…、白い目で見られてんぞ…」
「何だか分かんねぇけどお前ら何?んでアレは何だ」
アレとは当然、いつの間にかそそり立つビル郡のように自分達の回りを埋め尽くそうとしている目玉の這えた変な物体。
「仲間になれ、とでも言いたいんだろうな」
「っ、はぁっ?!冗談だろ!誰があんなもんになるかよ!」
その瞬間、まるでその言葉を待っていたとでも思わせるように、にんまりと笑った男の凶悪な顔は忘れたくとも忘れようがない―――。
「では、お前は今から俺の神器だ」
腕組みした男がその腕を解き、こちらに手を伸ばす。
何の話だ?などと、問い返す隙はなかった。
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