HIDE YOUR FACE

□単なる浮気
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「何叩いて欲しい?」

私はニンマリと笑って、喜ばせようと息巻いている様子の彼を見る。

「じゃぁ、『オルガスム』で」

「オルガスム〜?!殺す気?」

私の無謀なオーダーに、明らかに動揺して冷や汗を垂らす彼は少し青い顔。
私はそれにへらへらと笑って首を横に振った。

「アハハッ!いいよ、冗談!私がファンの子達に殺されちゃうもん!貴方達は貴方達の音楽をやればいいよ」

少しだけガッカリした様な、しょんぼりとする彼の顔を、苦笑しながらチラリと見て、私はそっと目を伏せる。

耳の奥、胸の奥の深い場所に確かにある音楽。
それはもう二度と奏でられる事のない過去の産物。私の宝物。

時間は否が応もなく流れて、次々に新しい音は生まれてくる。
そのたびに私は胸の高鳴りに出会っては、恋焦がれ、求め、音に浸る。

でも、

だけど、

やっぱり私は、

初めて覚えたあの頃の感覚を思い出す。

あの感覚、あの衝撃には程遠い。

ヌルイ。

まだまだ、若い。

こんな音じゃ、私には足りない。

ドキドキしない。

どの音もキラキラしていて、突き刺さるようでなくては、私の身体を壊してくれるくらいでなくては…!!!


期待はしてる。

私が見られなかった、高見に昇る彼らの姿のように、今の彼らが登りつめてくれるのを楽しみにしている。

もしかしたら、彼らならやるかもしれない…!!

でも今のままでは全然ダメ。

もっと、もっと、もっと、もっと…!!!
自分を出して、飛び出して、打たれる前に弾き返して、固まり始めている殻にヒビを入れないと…!

頑張れ…!!!

国民の耳を奪い尽くせ!!






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