陽射

□陽射 《鏡》
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瞳だけが、鈍く光る。
空ろに。

血の海に、糸が切れた傀儡(くぐつ)の様になって彼女はいた───。  







今日、15歳になった。
やっとこの日が来た。

身支度を整える手がわずかに震えていて、なんだか可笑しかった。
いつも落ち着きが無いとシスターからお小言を言われているけど、今日は緊張で身が竦む。


(そろそろ行く時間だよね…)

部屋を出ると、静まり返った廊下。
昨日はここを駆け抜けて叱られた。
礼拝堂までの道のりを今までの私を思い出しながら歩く。


(こんなに遠かったんだなぁ)
景色が違って見える。

近づくにつれて、緊張していた心から新たな私になる期待で、胸がドキドキした。






ステンドグラスに、聖母マリアと天使たちが耀いている。



怖いけど、優しいシスター達…。

いつも微笑んで待っていてくれる神父様…。


薄明るい礼拝堂


十字架―――…。








 『  サ ガ シ テ  イ マ シ タ  』








軋む 感覚


  何が?





 『  ミ ツ ケ タ  』




『 ア イ タ カッ タ  』







神父様の荒い声

これは…詠唱…?









 耳が痛む  千切れそう








『 ワ タ シ ガ  マ モ リ マ ス 』



体が熱い 焼かれているように 意識が 消える




 シスターの悲鳴



 砕ける 音

 風の吹き抜ける音




 鉄の臭い



『 イ ト シ イ  ワ タ シ ノ  ア ナ タ  』








逆さまの聖母マリア


逆さまの十字架

…痛い…






 目の奥が 焼ける 業火







   泣き顔の貴女は 誰?

 泣かないで
 『 ナ カ ナ イ デ 』










   …寒い



  凍えてしまう



  ミンナ ウゴカナイ
 『  ワ タ シ カ ゙ イ マ ス  』





 声が 獣の声が 口からこぼれていく 







   私じゃ ない
 『  ア ナ タ デ ス  』





 床を這い 十字架に 跪いて 請う





 
 骨と筋の浮き上がった手で 爪をつきたて 必死にしがみ付く







  あなたの誰かじゃない
 『  オ モ イ ダ シ テ  』

  お願いだから
 『  ア ナ タ ト  トモニ イタイ  』






 『  ハ ナ レ タ ク ナ イ !!! 』
 ワタシカラ デテイッテ!!!













 『   サ ラ !!!  』










 泣いていた






 彼女も  




 彼も






 
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