ループ
□序章
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「ハ…ハハハ…ッ…物の怪…ッ?何を…ふざけた……ッ」
私は胸の中に広がる怯えを紛らわそうと無理に笑い声を出した。
しかし、目の前の薬売りはそんな私をただ見つめ、何かを待つようにじっとしている。
あぁ…、この人の言葉や仕草はどうして自分の中に沈むように感じるんだろう…?
なのに、ひりひりと痛むような胸の感覚は何だろう…?
……怖い……。
この人は、理由があってここに来たんだ。
では、理由がなくなれば、もういなくなってしまう……。
去って行くんだ……。
私は反対側の椅子に静かに腰を降ろし、着けた白い前掛けの前できゅっと両手を握りしめ気持ちを落ち着かせようと息を吐く。
「……あなたの目的が、その…物の怪を斬る事で……、ここに一体、何の関係があるっていうんです…?」
私の言葉が、昼下がりの生ぬるい空気にぼやける。
「天秤が…そう言っているんですよ」
「天秤が…?」
えぇ…と呟く薬売りの言葉に答えるように、天秤が身を揺らす。
天秤は店の中に向いたり、私を向いたり、くるくると忙しなく向きを変える。
「何だか困ってるみたいですね…」
「やはりそう見えますか…。これは困った…」
全く困った風には見えないんだけど……と胸の中で薬売りに言い返す。
「どうやら、あんたから話を訊かせて貰わないとならない……」
薬売りの瞳の奥が煌めいた気がする。
そして私は、熱に浮かされたように頷いた。
「…何を…話せば…?」
「この店に訪れた客に、何を出す…?」
「何を…って、お茶と言われればお茶だし、水と言われれば水ですよ」
「その茶なり水なりはあんたが用意するのか」
「店主が用意したものを私がお出しするんです」
「…店主が…ね」
カチャカチャと小太刀が震えている。
先程まで持て余していた様子の天秤の動きが、ピタリと止まった。
「ッ…な…に…?」
「あんたはさっき…たまたまこの店を手伝う事になったと言っていたな」
「え…ぇ…」
「何故…そうした?」
「えと…私は奉公先を探しに町へ行こうと、この道を通って…、そうしたら、物凄い行列の茶屋があるって噂話を聞いて、ついでに見ていこうかと思って来たのが、この店だったんです…」
「…ただの好奇心で…」
「まぁ…。で、確かに凄いお客さんの数で驚いて、こんな店もあるんだなぁ…と通り過ぎようとした時、急にお客さん同士で喧嘩が始まったんです…」
「…喧嘩ですか…」
「なんでも、店の人が突然いなくなってしまって、お茶や何か、とにかく運ぶ人がいなくて、お客さんが怒り始めて横入りしたらしいんですよ…」
「成程…」
「あぁでも私、そういう『いざこざ』は苦手なので、関わらないようにしようと行きかけたんですよ?…でも…」
「…でも、あんたは関わってしまった…」
「…呼ばれたんですよ…。窓から声をかけられて、今だけでいいから手伝ってくれって…」
そうなんだ…。
本当は、その時だけの筈だったんだ…。
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