ループ
□序章
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「御…札?」
細長い紙がひとりでにピタリと張り付いて、黒い文字が浮き出た。
そして、薬売りの澄んだ低めの声が訊いてきた。
「この店には、あんたと、他に誰が居るんです?」
「…奥の調理場に店主が…」
一体この男は何が言いたいんだろう…?
しかし、妙な雰囲気に、私は何も言い返せない。
「ここにはいつから…?」
「何ヶ月か前にたまたま通りかかって、ちょっと手伝うつもりが、そのままお世話になって…」
「たまたま…ねぇ。それにしちゃあ、随分と打ち解けているもんだ…。まるで元からここにいたみたいに…」
はぁ…といいながら、薬売りの目線を追う。
そして、つい先程から、かたかたと鳴る薬箱……。
「さっきから…気になっているんですけど……」
ゆらりと薬売りの目が私に向けられる。
「何の音ですか?」
視線が絡み合ってしまった。
まるで首を絞められるような感覚に息を呑む。
でも青い瞳から目が離せない。
その時、スッ…と薬箱の引き出しが動き、キラキラしたものが姿を現した。
「な…なに?…小太刀……?」
私の額にうっすらと浮かぶ冷や汗に苦笑したのか、薬売りの唇が、ふっと笑みに歪んだ。
ひやりと、汗が背にも伝った。
薬売りの口が空気に溶けるように開かれ、声が、耳に直接……響く ――――― 。
「…斬りに来たんですよ…」
何をと聞く私の心を読んだように、薬売りの言葉が続く。
「物の怪を…斬りに来たんです……」
唖然としている私の目に、鮮やかに笑う薬売りの笑みと、怪しく輝く太刀、カタカタと震える天秤が、絶望とも言える計り知れない恐怖を、感じさせていた ―――――― 。
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