ループ


□序章
5ページ/15ページ

「御…札?」


細長い紙がひとりでにピタリと張り付いて、黒い文字が浮き出た。

そして、薬売りの澄んだ低めの声が訊いてきた。


「この店には、あんたと、他に誰が居るんです?」

「…奥の調理場に店主が…」


一体この男は何が言いたいんだろう…?

しかし、妙な雰囲気に、私は何も言い返せない。


「ここにはいつから…?」

「何ヶ月か前にたまたま通りかかって、ちょっと手伝うつもりが、そのままお世話になって…」

「たまたま…ねぇ。それにしちゃあ、随分と打ち解けているもんだ…。まるで元からここにいたみたいに…」


はぁ…といいながら、薬売りの目線を追う。



そして、つい先程から、かたかたと鳴る薬箱……。


「さっきから…気になっているんですけど……」


ゆらりと薬売りの目が私に向けられる。


「何の音ですか?」



視線が絡み合ってしまった。


まるで首を絞められるような感覚に息を呑む。

でも青い瞳から目が離せない。



その時、スッ…と薬箱の引き出しが動き、キラキラしたものが姿を現した。



「な…なに?…小太刀……?」


私の額にうっすらと浮かぶ冷や汗に苦笑したのか、薬売りの唇が、ふっと笑みに歪んだ。

ひやりと、汗が背にも伝った。


薬売りの口が空気に溶けるように開かれ、声が、耳に直接……響く ――――― 。



「…斬りに来たんですよ…」


何をと聞く私の心を読んだように、薬売りの言葉が続く。





「物の怪を…斬りに来たんです……」



唖然としている私の目に、鮮やかに笑う薬売りの笑みと、怪しく輝く太刀、カタカタと震える天秤が、絶望とも言える計り知れない恐怖を、感じさせていた ―――――― 。











.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ