ループ
□序章
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私は何事も無かったように距離を置いて、また看板として店の前に立つ。
静寂 ――――― 。
誰一人、通らない。
そして、茶を傍に置いたまま、男は真っ直ぐ前を見据えているようだった。
変な男が来たものねぇ…、と、私も何の気なしに前を向いている。
「ここは…」
男が流れ込むように声を出した。
私はそのほうに顔を向け、言葉を待つ。
「けっこう客が入るんですかい?」
「えぇ、今日は少ないですけど、いつもは、旅の人や何かが、よく来ますよ」
「ほぅ」
「お客さんも、行商かなんかですか?」
「私は…」
「…?」
「只の薬売り…ですよ」
なんとも含みのある言い方に、私は胸の中で小首をかしげた。
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