ループ
□序章
2ページ/15ページ
忙しい時間も過ぎて、私は欠伸を噛み殺して店の前に立っている。
看板娘もこんな時はただの娘。
育ち盛りなのだから、睡魔も当然。
「(ふぁ…、暇…)」
次第に、視界が定まらなくなっていく。
私は、…こくり…と、立ったままで舟を漕いでいた…。
おそらくは、ほんの数秒じゃないかと思う。
私は、ハッと目を開けると、私の立つ隣に置かれた長椅子に大きな荷物を傍らに置いた、歌舞伎のような化粧の男が一人…、音もたてずに座っていた。
「…いらっしゃいませ…」
私は、条件反射でいつもの台詞を言う。
男はこちらを見なかった。
「茶を…」
とだけ言って、そのまま押し黙る。
まぁ、世間話など別に無理にする事もないのだ。
格好からするとおそらくは旅の行商か何かだろうから、こことは違う場所の事に興味はあったけれど、他に訪れる客にも聞ける事だし、別に気にしなかった。
私は調理場で、湯飲みに茶を入れて小さなお盆に載せて男の元に運ぶ。
「はい、お待たせしました」
「どうも」
茶を置きながら一瞬だけ、ちらりと男の顔を見た。
赤い隈取…、浅葱色の上唇…、鼻筋に沿う朱色…。
双眸の、青い瞳が私を見た。
瞬間、迂闊にもドキリと胸が跳ねた。
.