ループ


□序章
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忙しい時間も過ぎて、私は欠伸を噛み殺して店の前に立っている。

看板娘もこんな時はただの娘。

育ち盛りなのだから、睡魔も当然。


「(ふぁ…、暇…)」


次第に、視界が定まらなくなっていく。

私は、…こくり…と、立ったままで舟を漕いでいた…。


おそらくは、ほんの数秒じゃないかと思う。

私は、ハッと目を開けると、私の立つ隣に置かれた長椅子に大きな荷物を傍らに置いた、歌舞伎のような化粧の男が一人…、音もたてずに座っていた。


「…いらっしゃいませ…」


私は、条件反射でいつもの台詞を言う。

男はこちらを見なかった。


「茶を…」


とだけ言って、そのまま押し黙る。


まぁ、世間話など別に無理にする事もないのだ。

格好からするとおそらくは旅の行商か何かだろうから、こことは違う場所の事に興味はあったけれど、他に訪れる客にも聞ける事だし、別に気にしなかった。


私は調理場で、湯飲みに茶を入れて小さなお盆に載せて男の元に運ぶ。

「はい、お待たせしました」

「どうも」


茶を置きながら一瞬だけ、ちらりと男の顔を見た。

赤い隈取…、浅葱色の上唇…、鼻筋に沿う朱色…。
双眸の、青い瞳が私を見た。

瞬間、迂闊にもドキリと胸が跳ねた。





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