群青の

□Hide-and-Seek
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そして、林間合宿当日の朝。

千影はまとめた荷物を手に、リカバリーガールの元へ最終確認をしに来ていた。

「忘れ物はないだろうね。」
「はい、必要な物は一揃い持ちました。でも万が一に備えて皆、保険証の提出はされてる筈なので大きな怪我や急病の場合は…ぁ、でも今回は…。」
「…あぁそうだよ。今回は全部が秘密裏。その万一の時も、あんたに頼らなきゃいけなくなった。だから頼んだよ、鏡千影。」

リカバリーガールのきつく引き締められた眉間の皺に、急に緊張が走った。

「っ…責任、重大ですね。…頑張ります。」
「まぁ気負わず、楽しんで来なさい。これも勉強だ。」
「はい、ありがとうございます。」
「あと、自分の事にも気をつけるんだよ。あんたが倒れたら元も子もないからね。」

その心配そうなリカバリーガールの表情に苦笑いしながら返事をし、行ってきますとお辞儀をしながら保健室を出た。





千影は自分の荷物と、念には念を入れて災害用の救急セットを抱え、ちょっと気合い入り過ぎかな…とも思いつつ集合場所に向かう。
学校の一角のバス乗り場までの道を歩きながら、少し前を気怠げに進む男を見つけた。

漂う陰鬱なオーラ。

その背中を見ながら、千影は数日前の出来事を思い出して目を伏せた。

「(…やだな…。こんな気持ちで会いたくない。でも、向こうは忘れている事なんだから私も気にする事ないんだよねホントは…。はぁ…。)」


それに飽くまでも彼は担任で、今回は上司だ。が、正直いうと極力言葉を交わしたくないし、近くに行くのも気が引ける。
けど…これは仕事だ!と意気込み、千影は意を決して重たい荷物を抱え直し小走りでその背中を追った。



「――っ…追いついた!…お、お早うございます相澤先生。今回は宜しくお願いします。…って、どうか…しました?」
「……。」

隣に走り寄り、ペコリと頭を下げながら挨拶をした後、改めて顔を上げたその先に見つけた担任の渋い顔に、あ失敗したかなぁ…と笑顔が引き攣るのを感じつつ、千影はどうにか社交辞令の顔で微笑んだ。それをつと前に向き直った担任が、怠そうに口を開いた。

「…いや、別に。元気だなと思って。」
「!…そういう相澤先生は、今日もお疲れですね…。」
「……お陰さまで…。」

ぼそぼそと口の中で呟かれたやる気のなさそうな返事に苦笑いをこぼし、千影は気まずい気分のまま視界の向こうでブンブンと手を振る自分のクラス委員長に小さく手を振り返し、ほっと安堵の息をついた。

「あぁ、さすが。A組委員長飯田君。来るの早いなぁ。…えっと…じゃ、失礼します。」

ほんの一瞬、物言いたげな担任を無視して軽く頭を下げながら追い抜き去り、千影は走り寄ってきた飯田と笑い合いながらバスへ向かった。



「やあ、おはよう鏡くん!流石に荷物が多いな。バスまでだが少し持とう。」
「飯田君おはよう。大丈夫、これも鍛錬!…なんちゃって。」

いい心掛けだ鏡くん!と手刀のように振り上げた飯田に千影が笑い返し、合宿頑張ろうね、と荷物を積み込みその隣に並んだ。

「来るの早いねぇ飯田君。皆が来るのここで待ってるの?」
「あぁ。委員長たる者、いの一番で来るのは当然だ!そして、クラスの皆の誘導もまた委員長の責務。」

ぐっと胸を張る飯田の隣で、さすが委員長!と千影が笑う。
その仲睦まじい様な二人の姿に虚ろな目を向ける相澤消太は、だらだらと最低な気分でバスに近付いて行った。

「…委員長、あと頼むね〜…」

ボソボソと言葉を吐き、一人先に乗り込んだそれに直角に礼をした飯田越しに、ちらりと盗み見た瞬間ぶつかり合った視線。

「…。」
「っ、」

お互い同時にどちらともなく視線を逸らす。
そして千影も何事もなかったように、勢いよく身体を起こし張り切る声を上げる飯田に笑いかけた。





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