群青の

□ペテン師が笑う
3ページ/15ページ


三人から、学科は大丈夫だと太鼓判を押され胸をなで下ろした千影が、ペンをしまいながら顔を上げた。

「ありがとう。少し不安がとれたよ。でも…何で三人が見てくれたの?」

その言葉に少し顔を赤らめた緑谷が一瞬チラリと轟を見て千影に微笑んだ。

「職場体験の仲間でしょ、僕ら。」
「鏡君の場合、完全に巻き込まれたと言う方が正しいがな。」
「俺らのせいで悩んでるなら責任あるし。」
「あ〜…そっか…そうだね。」

ありがとう!と改めて頭を下げた千影に飯田が眼鏡をそっと押さえながら口を開いた。

「それはそうと、鏡君はどんなヒーローを目指しているんだ?」
「っな、何急に…。」
「一度訊いてみたいと思っていたんだよ。直接話す機会がなかったからな。」
「そうだね、確かに…。」
「君が雄英に編入したのは、医療サポートの特別枠としてだと体育祭の説明の時に話していただろう?」
「うん。その勉強は今もしてるよ。まぁ最近ちょっと状況が変わって習うところがないけど…。目的は、変わってない。」

逸らさずに断言する千影の瞳の奥の力強さに息を飲んだ飯田が、ふと力を抜くように微笑んだ。

「そうか…。じゃあ体調管理は徹底しないといけないな。医者の不養生にならないように。」
「ぅ…仰るとおりです…。」

憮然とした千影に笑いかけ、緑谷がポケットから何かを取り出した。

「鏡さん…、これなんだけど…。」
「ん?何?何かくれるの?」

緑谷の手の平を覗き込み、そこにあった絆創膏に千影の表情が曇った。
その事に気付かず、緑谷は懐かしむように言いはにかんだ。

「子供の頃の、僕が君のことを思い出せたのはこれだけで…。鏡さんが覚えてるかどうかは分からないんだけど、お礼がしたいなって…思って…。」
「ん?これは絆創膏か?」
「緑谷、何でオールマイトが描いてあるんだ?」
「実は鏡さんとはまだ小さかった時、一緒に遊んでた時があって、その時にもらったんだよ!オールマイトの絆創膏。そうだよね?」
「(…オールマイトなんて…好きじゃない…)」

いろんなお店を探したら偶然見つけたんだ、と嬉々として言う緑谷の手から顔を背けて、無意識に言葉が洩れた。
あ、ごめん…今何て?と聞き返してきた緑谷にハッと向き直る。

「!何でもない…よ。気持ちだけ、受け取っておくね。…緑谷君は、今でも好きなんでしょ?だったら緑谷君が使ってよ。」
「緑谷君…女性にするプレゼントなら他の物が良かったかもしれないな。」
「その小さい時ならまだしも、今それはどうなんだ?」
「っ…は、はは…失敗…ごめん…。」
「ちょっ、待って違うよ?!気にしてくれて嬉しいよ!ただ、ただね…っ」

忽ち落ち込んでしまった緑谷に千影が慌てて声をかけた。
自分のつまらない固執のせいで、緑谷の好意を壊してしまうのは、とても辛い。

「〜…っ、いずく君、ゴメン!!」
「?!な、何で鏡さんが謝るの?!」
「…実は…私、少し前からオールマイトが苦手っていうか…」
「ぇ…っ、どうして?!」

信じられないと目を剥く緑谷に申し訳なさで頭が上がらない。
それに、どうしてと言われて、自分の事を話すのはまだ勇気が出なかった。
苦しい言い訳と謝ることしか出来ず、他の三人も困った表情で言葉を探していた。

「…まぁ、鏡君も辛かったんじゃないか?オールマイトと言えばNo.1ヒーロー。平和の象徴だ。賞賛すべき存在だと言われる中では堂々と言える事じゃないさ。」
「つまり、タイプじゃないんだろ?」
「タ…イプじゃないとか、そういう意味でダメな訳じゃ…ないと思うんだけど…。うぅ〜ん…。」

腕を組んで轟の言葉に激しく苦悩する千影に、自分の記憶の中の千影を思い出しながら、緑谷は少しだけ感じた寂しさに笑った。

(昔とは違う。長い間、会っていなかったんだ。変わっても仕方ない。けど…、一体何があったの…?)

千影の笑顔の中にその抱えている過去を想像しながら、緑谷は自分の師匠に心の中で語りかけ、手の中の絆創膏をポケットにしまった。




.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ