群青の

□A-Z
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風に揺れる木々や鳥のさえずりの音以外ない中、相澤は薄明るい階段をのろのろと降りながら暗い目をしていた。

(どうかしてる。)
腹の下に黒いゴツゴツとした石でもあるような妙な感覚だ。この不快感をどう表したらいいのか見当もつかない。

こうなったら早々に帰って眠るに限る、と虚ろな目で車のドアに手をかけた。
とその時、頭上から焦ったような声が降ってきた。

「っ、相澤さんっ!!受かった〜っ!私合格って!!」

見上げた先に、千影の困ったような笑顔が太陽に照らされて、相澤は眩しそうに目を細めた。
そして、あぁ、しまった、と顔を伏せる。

「バカやろ、目がつぶれちまうだろ。」
「あ〜、大丈夫…?」
「……それは仮試験の合否の通知だ。本試験は別日だからな。」

そう告げると千影が部屋に引っ込んだ。次の瞬間、悲鳴か絶叫かよく分からない声が上がってまた顔が飛び出した。

「ちょっと本試験、明後日って…!何でもっと早く持ってきてくれなかったの?!」
「っ馬鹿か、俺だって仕事してんだよ、お前にばっかり付き合ってられるか!」

相澤のあまりの剣幕に千影が窓の陰から、ごめんなさい…、と情けない声を出した。
誰も見えなくなった窓に、相澤は目を閉じて深い溜息を吐く。

「…どうせお前のことだから、大体仕上げてあるんだろう?」

ほんの僅かに千影の頭が覗く。ちょっとだけ拗ねたような雰囲気に思わず笑みがこぼれた。

「超えてこいよ、千影。」

顔を見せた千影と、ようやく目と目が合う。見れば、その顔が少し赤い。けれどその目には意志のある強い力があった。

「俺達が容赦なく指導してやるから、全力でぶつかって来い。」

ニヤリと歪んだ相澤のその目に、千影はゾクゾクと身体の芯が昂ぶるのを感じた。
そして窓に身を乗り出して笑った。

「臨むところだよっ、相澤さん!!」

そう言って再び部屋に戻った千影と猫の騒ぎ声が聞こえた。


相澤も改めて車に乗り込む。
そこで自分の顔が緩んでいる事に気が付いてしまって手で押さえた。

距離を置こうとしたにもかかわらず、会って顔を見れば始まる、いつもと変わらないやり取りに調子が狂う。
いや、これはむしろ千影のハイテンションにあてられただけか…。

思えば、出会った頃から振り回されている気がする。マイペースで奔放で我侭で、時々暴れる変な奴…。強気に出たかと思えばしおらしくなったり…。

猫か、アイツは…。

そこまで思って妙に納得すると、相澤はいつもの表情で再び自分の職場へと車を走らせた。









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