群青の

□A-Z
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昼下がりの太陽の光は眠気を誘う。

安穏とした空気が余計にまどろみを濃くしているようで、千影もそれに抗えなくなりそうなのを必死で耐えていた。

昼も夜も変わらない静けさの漂う自分の街で、千影は盛大に口をあけて欠伸を吐き出す。
手にはがらごろと音を立てる同居猫の食事をぶら下げ、肩には今にも腕が千切れ落ちそうな鞄を担いでいた。

「ぅ〜、疲れた…。肩イタイ…。」

あの時の男の子から譲られた本は借りずに置いてくるべきだったと後悔しながら自分のマンションのある道までどうにか足を運んだ。

疲労と暖かさのせいか、再び欠伸が漏れ出しそうになったその時、そこでこちらを見ている見知った顔にどうにか噛み殺した。

「あ〜、久し振り〜。」

その気の抜けた千影の笑顔に、相澤はがっくりと首をもたげた。

「お気楽なもんだな。羨ましいよ俺は。」
「?ちょっとコレ持って、重くて!」

相澤の足元にズシリと鞄を置いた。肩を揉みほぐす千影を尻目に、その手から猫缶の入った袋の方だけ奪うと、相澤はさっさと階段を登っていった。
その背中に千影の抗議の声が響いたものの、これはみごとに黙殺され、唸り声を上げながら千影も後に続いた。

そして、鍵を開けて中に入るとようやく一息ついた千影が冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して一気に煽った。

千影は本来の飼い主によじ登る猫に破顔しながら、ゼリージュースを差し出して目配せすると、それは首を横に振って断った。
肩をすくめながらペットボトルとそれをしまうと、千影は奥の部屋へと移動して、壁の向こうから用件を尋ねる。

そちらから聞こえる衣擦れの音から気を逸らすように頭をくしゃりと撫でつけて、相澤が一通の封書を椅子においた。

「お前宛の封書が再配達の後こっちに戻ってきてた。郵便屋の怠慢だな。プロなら意地でも届けるだろ…。」

ラフな格好になった千影が脱いだ制服を手に裸足で出てきた。

「ふ〜ん。それで雄英高校の先生様が直々に届けて下さったんですね?それはそれは…。」
「んだそれ、嘗めてんのか。」
「嘗めてないよ。ありがとうございます。でもどうせ不合格でしょ?」

ハンガーにスカートを吊しながらちらりと見た相澤は、すでに玄関のドアに手をかけていた。

どちらにせよ、自分で中身確認しろ、とだけ言い置いて出て行ってしまった。
呆気なく帰った客人に、千影と同居猫は同じ様な顔をしてそれを見送った。

「…なんか、変だったね…?」

にゃぁ、と鳴いたそれを腕の中に抱き上げて、千影は椅子に置かれた封書を開いた。







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