群青の

□空白の亡霊
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それは目に見えない小さな亀裂。
その隙間に入り込み、じわり、じわりと染みをつくる。
その染みは次第に、多くの胸の中に猜疑を産み、一人の人物にそれは注がれていった――――。




林間合宿襲撃の翌日。雄英高校、会議室に緊急招集された教師陣が、今回の林間合宿で起こった襲撃事件、そして生徒の拉致という失態に顔を苦渋に歪めていた。
そして待ち望んでいたかのように『大失態』と叩く新聞とタブレットを示す校長の根津が、拉致被害にあっている爆豪の名前を出すと共に、その表情を曇らせた。

「────…被害にあった爆豪くんもそうだが、彼と同じA組の生徒、鏡千影くんが敵に狙われている可能性があることが分かった。」
「?!」
「…彼女は今どこに?」
「イレイザーヘッドの報告を受けて警察に保護をお願いしたよ。」

一瞬騒然とした室内に混沌とした空気が流れる。

「校長…。何故彼女が、と聞いてもいいですか?」
「敵の男が鏡君を名指しし、『死柄木弔がご所望だ』と言ったそうだ。」
「っ…マジかよ…!」

天を仰ぎ嘆くプレゼントマイクの隣で、スナイプが冷静に言葉を放つ。

「しかし、彼女は中途編入の生徒。体育祭も出ていなければ、爆豪のような目立つような行動はなかったはず。ならば何故、敵が彼女を知り得たんです?」
「……こんな事を考えたくはないんだけど…、彼女が正式受験じゃなく、『編入』してきたことも、なにか関係があるのかしら。」

ミッドナイトの言葉に、全員の目が根津に注がれる中、合わせた親指を眉間に押し当て唸っていたガイコツ顔のオールマイトが更に眉間にしわを寄せた。

(彼女に限って、と思いたいが…、正直言って、彼女のかつての自分に対しての感情が、死柄木を連想させることに合点がいってしまう自分がいる。)

重い雰囲気が立ち込め、固唾を呑む面々に根津が真面目な顔をして口を開いた。

「…彼女の過去の経歴。全てじゃないが、警察の協力も仰ぎつつ裏付けの取れたことだけ皆に聞いてもらいたい。」






一方、長野県のとある病院で、鉢合わせになった切島と轟が未だ目を覚まさない緑谷の見舞いを終え、椅子に腰を下ろしていた。

「…なぁ、轟。」
「なんだ。」
「爆豪の事もそうなんだけど…、」
「……鏡の事だろう?」

感情を含まない声でその名前を出した轟に切島はハッと顔を向ける。

「マジなんかな…鏡さんを死柄木って奴が狙ってるって…。」
「…相澤先生の話じゃ、ツギハギの男がそう言ったらしいな。」
「っ、何で鏡さんが狙われなきゃなんねぇんだ?どう考えてもおかしいだろ?!」
「おい、ここ病院だぞ。少し声落とせよ。…まぁでも、俺は何となく分かる気がする。想像だけどな。」
「!…何だ、それ…。」

訝しげな顔をしている切島を一瞥して、轟は思い出すように遠い目をした。

「あいつは、誰でも助けるんだ。動物も子供も年寄りも。信じられねえけどチンピラみたいな胡散臭い奴まで…脅しながらな。」
「は、はぁ?」

意味が分からないと嘆くように更に眉を寄せて言う切島に、轟は揺るぎのない目を向けた。

「そういう奴だって俺は知ってる。なら、敵でも何でも怪我してる奴なら、あいつから見たら治す対象にしかならないだろうなって、思える。」
「な、に言ってんだ…敵は助けちゃ駄目だろ…。」
「俺は医者目指してねえから、実際あいつがどんな考えなのかは分かんねえけど…。もしそんな事が実際あったとしたら、敵は…鏡を放っておかないだろうな。」
「!?」

淡々と言い並べる轟の言葉に何も言えなくなる切島が、振り切るように俯きながら拳を額に打ち付けた。

「ッ、クソ…!俺、ちょっと疑っちまったっ…!!鏡さんが、敵を誘導したんじゃないかって、思っちまった…!仲間、信じてやれねぇなんて…男じゃねぇよな…!!」

身を屈めて呻く切島に視線を落とし、轟は無言で前を向いた。



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