ある夏の日の

□水遊び
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―――――…夢を見た。

幼いころの記憶。
近所の幼馴染の男の子達と遊んだ川原。
平たい石を投げ、ポンポン…とリズム良く水面を這わせる遊び。



僕は、一度もそれが出来ない。
悔しくて、悔しくて、一人砂利の中を目を皿のようにしてちょうど良さそうな石を探す。

「はぁ…、ないなぁ…。飛びそうな石は皆かっちゃん達が川の中に投げちゃったからなぁ…。」

ブツブツとボヤきながら、僕は下を見続ける。

「何か見つけてるの?」
「うん、石を…」
「いし?」
「!?」

一生懸命に下ばかり見ていたから、いつの間にか目の前に誰かがいた事に気付かなかった。
そして、ビックリして顔を上げた僕の目に飛び込んできたその人は僕と同じくらいの女の子。
フワフワの髪に、白っぽい淡い色のワンピース。足はピンクのサンダルで、上から下まで全部が透けて見えるんじゃないかってくらい、そこだけ光って見えた。

そして、その女の子はふわりと微笑った。

「石を探せばいいの?どんな石?」
「っ〜〜…!!」

僕はこの子を知らない。
知らない人とは話しちゃいけないってお母さんが言ってた。
でも、何も言わなかった僕に首を傾げたその女の子は勝手に『いし』を探しはじめた。

そして何度めかの諦めの息の後、ねぇ〜っ見て〜!という声に振り向いた僕は、真っ赤な顔で叫び再び背を向ける。

「?、っ…うわぁぁっ〜?!」
「ん?」

ワンピースのスカートをポケットのように前で結び、そこに色とりどり、形も様々の沢山の『いし』を集めていた。
そして、必然的に見えてしまいそうで見えない部分の事など気にしない女の子が、その中の一つを手にして太陽に翳した。

「すごい…キラキラ〜…。」
「!キラキラ…?本当?」
「うん!いずく君にはこっちのあげるね?みどりのやつ〜。」
「?!」

わぁ、キレイだね〜!と覗き込むその女の子の言葉に僕は耳を疑った。
今、この子は、僕の名前を呼ばなかったか。僕はこの子を知らないのに、どうして…。
そう変なものを見るように目を向けている僕に、その子が真顔で見返してきた。

「どうしたの?」
「ぼ、僕の名前…、」
「あ!あそこにもキレイなのあった〜!」
「あ、ちょっと、あの…!」

僕の話も聞かずに、スカートからせっかく集めた色の付いた石をポロポロ零しながら女の子が川辺りにヨロヨロと行ってしまう。

「あ、あんまり水に近付いちゃいけないって、お母さん言ってたよ…っ、ね、ねぇ!」

へいき、へいき〜!と笑うその子が突然叫び声を上げて消えた。

「!だ、だいじょうぶ?!」

慌てて転びそうになりながら走り寄り、そこで砂利に這いつくばるその子は固まったまま動かなかった。
頭でも打ったのかと心配になってしゃがみ込むと、その子の目が真ん丸に見開かれていた。

「!?」
「これ…スゴイ、お皿だ…、お皿石だ…!」

その手には僕が探し求めていたちょうどいい丸みのある平たい石。僕は思わず歓声を上げた。

「わ!イイ石!」
「え?イイ石?」
「うん!あ…っあぁ、うぅん、何でもない…、」

女の子の手にした見事に平たい石をちらちらと見ては逸らし、僕は諦めようと再び背を向けて砂利にしゃがみ込む。
人の物をとっちゃいけない。羨ましがっちゃダメだ。
僕は僕のを見つけよう、と意気込んだ時、ヌッと差し出された平たい石が小さな手の平に乗っていた。

「…え…?」
「石、私はなくても大丈夫だからコレはあげるよ!」
「えぇ、いいよ、そんな…」
「……じゃあ、コレは川に返しちゃおうか。」
「え!?」

っぅおりゃぁ…っ!そう言って投げた石が水面をリズム良く跳ね、心なしか光って見えた石がポンポンと向こう岸まで行って、カツンと音がした。




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