ある夏の日の

□夕立
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あ…暑い、暑すぎる…と声も出ないほどの疲労感に、千影は取り憑かれたようにミネラルウォーターのペットボトルを煽った。
けれど手にした瞬間悟ったはずのその空っぽの感触にも気付きたくない程の、誤作動然とした自分の行動に、流石にマズイ…、と千影は道端の何かの軒先に隠れ、自動販売機の前で財布を取り出した。

自動販売機のその金額表示に目を据え、その小銭を求めて財布の小銭をイライラと探る。

(あと10円…あと10円足りない…っ!)



その様子を実は後ろから観察していた男が一人、満を持して近付いて行った。
千影が今にも叫び出しそうになった瞬間、微かな金属音を鳴らしてそれが入れられた。
ハッとする千影が顔を上げる。それにクツリと嘲笑うようにそれが千影を見た。

「ぁ……」
「お前たまにはミネラルウォーター以外も飲んだ方がいいんじゃねぇの?」
「かつき君…、」
「ったく…、今にもぶっ倒れそうな顔しやがって…ほら、どれだよ?」

早く選べ、と爆豪がボタンを押す準備をしている。
確かに、汗をかいた時は程良い糖分と塩分が必要不可欠…。

「じゃあ、ポカリで…。」
「ポカリねぇからそれっぽいヤツな。」

そう言って選んだスポーツドリンクが差し出され、受け取ろうとした腕をすり抜けて頬に押し当てられた。

「っツメタイ!」

冷えたボトルの刺激にきゅっと目を瞑った千影を馬鹿にしたようにゲラゲラ笑う爆豪をギロリと睨みつけ、ようやく受け取ったそれを慌てて煽った。
ごくごくと喉を鳴らす千影を鼻で笑う爆豪も財布を取り出し、自動販売機に小銭を入れた。



すぐ近くの公園のベンチは丁度良い日陰が落ち、千影は爆豪の隣でホッと息をついた。

「さっきはありがとう…助かった…。あとで返すね10円。」
「いらね。」
「じゃあお礼にデートしてあげるよ、かつき君。」
「…それはもらっとく。」
「冗談だよ?」
「んだとコラ…。」
「フフ…柄悪い。」

つまらなさそうに舌打ちして顔を背ける爆豪にこっそりと笑い、千影は立ち上がって背伸びをした。

「ん〜っ…よし、復活!帰ろうか途中まで。」
「……途中までな。」

一瞬考え込むように千影をじっと見つめた爆豪が重たそうに立ち上がる。
それを、自分と同じように暑さバテかなと笑い、アイスも買っちゃう?とコンビニを指さした。

「お前それ俺に奢れって言ってんのか。」
「!…ごめん、そうだった。やっぱナシ、我慢します!」
「電車代大丈夫だろうな…。」
「Suicaなので!」

大丈夫!と親指を突き立てる千影に、苛ついた顔で舌打ちした爆豪がわしゃわしゃとその頭を掻き回した。





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